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【ボードゲーム】モダンアートの戦略・戦術マニュアル

この記事では、オークションボードゲームの名作「モダンアート」の勝率を上げられるかもしれないテクニックについて書く。モダンアートには運要素がある上に、プレイメンバーによってゲーム内容が大きく変化するため、安定して勝つことは難しい。しかし、大きなプレイミスを防ぐ要点や、ゲームシステムの重要な点は、知っていると様々な場面で役立ち、勝率を上げる助けになる。

ちなみに、自分のモダンアートの勝率は多少良い程度に収まっている。詳しく書くと、自分のモダンアートプレイ歴は1年程度であり、プレイ回数は累計30回程度、異なるメンバーとプレイした機会は25回程度、ゲームの平均参加人数は4人程度、1位率は7割程度。

また、この記事は2014年に発売されたNew Games Order版のモダンアートに則って書かれているため、適宜読者が持っているモダンアートに置き換えて読んでほしい。ちなみに、New Games Order版のモダンアートでは金銭の最小単位は1000ドルであり、1ラウンド目で1,2,3位の画家にそれぞれ3万ドル、2万ドル、1万ドルの値がつく。また、各画家の絵画の枚数と画家の名前の対応は以下のようになっている。

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どうすれば勝ちやすくなるか?

結論から言うと、大事なのは「出品・入札予定の絵画について、ラウンド終了時の絵画の売却価格Pを予測し、\frac{P}{2}以上のなるべく高い価格で他プレイヤーへ絵画を販売し、\frac{P}{2}以上P未満の価格で入札を行う」こと。よく分からないと思うので以下の4ステップに分けて順に説明していく。

  1. ラウンド終了時の絵画の売却価格を予測する
  2. 予測した売却価格から、絵画の適正価格を求める
  3. ラウンド終了時に値がつきそうな絵画を適正価格以下で落札する
  4. 高値がつきそうな絵画や、自分が落札した画家の絵画を出品して、他プレイヤーに適正価格以上で落札させる

ラウンド終了時の絵画の売却価格を予測しよう

まずは基本中の基本、自分の手札や場のカードを見て、それぞれの画家の絵画がラウンド終了時に出品数何位になり、どれくらいの値がつくか予想しよう。ところでこの記事では、ラウンド終了時の絵画の売却価格をPと表記する。Pの予測を絞りこむためのヒントを下に示したので、参考にしてほしい。

  • Lite Metal, Yokoは4枚出品された時点でそれぞれ2位以上確定、3位以上確定である

  • 過去のラウンドで1位になった画家は、そのラウンドで必ず5枚出品されている。たとえば、Lite Metalが過去に2回1位になっている場合、Lite Metalの絵画の残り枚数は12枚 - 2*5枚 = 2枚しかない

  • 複数のプレイヤーが落札済みである画家の絵画は、既に複数枚出品されている上に、以降も出品されやすいため、ラウンド終了時に高額になる可能性が高い
  • 次の自分の手番でラウンドを終了させられる場合、ラウンド終了までに出品数の順位がどの程度変動し得るか確認しよう。今までに出されたダブルオークションのカウンティングが特に有効である

  • ラウンドの後半は情報が多くなり、Pの予想が多くのプレイヤー間で共通となる。他のプレイヤーの値付けに注意して、自分がズレた相場観を持っていないか確認しよう

 

絵画の適正価格を求めよう

絵画の売却価格Pを予測することで、絵画の適正価格を知ることができ、取引の損得を勘定できるようになる。ただし、ここでの「適正価格」とは、絵画の売り手と買い手の双方に利益があり、かつ売り手が自主買取によって利益を増やせないような範囲の価格のことを指す。

あるプレイヤーが、ラウンド終了時の絵画の売却価格をPと予想したとき、\frac{P}{2}以上P未満の価格がそのプレイヤーにとっての適正価格である。たとえば、絵画の売却価格を1万ドルだと予想しているなら、絵画の適正価格は5000ドル以上1万ドル未満となる。適正価格の範囲を求める手順はややこしいので下のボタンにまとめた。

 細かい理由

Pから適正価格の範囲を求めてみよう。簡単のため、予測Pは売り手と買い手で同一であるとする。

まず、適正価格はP未満である。なぜなら、売却価格がPのとき、出品された絵画をP以上の価格で落札しても買い手に利益は出ないからである。

次に、適正価格の最小値を考えてみよう。落札価格が\frac{P}{2} のとき、絵画の売り手は落札時即座に利益\frac{P}{2}を得て、絵画の買い手はラウンド終了時にP - \frac{P}{2} = \frac{P}{2}の利益を得る。したがって、売り手買い手双方の利益は\frac{P}{2}となり、等しくなる。*1

もし\frac{P}{2}未満の価格でしか入札されなかった場合、売り手は絵画を\frac{P}{2}以下の価格で自主買取することで自分の利益を増やすことができる。こうなると売り手以外が利益を得られないので、最低でも\frac{P}{2}の入札を売り手以外が行うことになる。 よって、\frac{P}{2}は適正価格の最小値となり、大抵の場合はこの値よりも大きい価格での取引が行われることになる。

以上より、ある絵画のラウンド終了時の売却価格をPと予想したとき、適正価格は\frac{P}{2}以上P未満となる。*2

 

ラウンド終了時に値がつきそうな絵画を適正価格以下で落札しよう

モダンアートでは、プレイヤーが所持金を増やすパターンは以下の2つしかない。

  1. 自分が落札した絵画を、ラウンド終了時に落札価格より大きい価格で売却する
  2. 自分が手札から出品した絵画を他プレイヤーに落札させる

このうち前者については、絵画を適正価格で積極的に落札することで利益を増やすことができる。他プレイヤーが絵画を出品したとき、まずPを予測し、\frac{P}{2}以上P未満の範囲で入札を行おう。適正価格の範囲で入札価格を決定するために役立つ基準を以下に示す。

以下の場合は、適正価格内で高めの金額で入札するとよい。

  • 相場が高めのメンバーでプレイする場合
    あくまで自分の感覚基準だが、最初のラウンドの1枚目の絵画が2万ドル以上の価格で落札されるようなメンバーはかなり相場が高め。メンバーに合わせて柔軟に入札価格を変えよう

  • 自主買取が多いメンバーが出品した場合
    高額入札がないとすぐ自主買取をしてしまう人はよく見てきた。そのような人を相手に取引をする際は、適正価格の範囲である程度高めに入札する必要がある

  • ゲーム参加人数が多い場合
    参加人数が多い→入札者が多い→価格が釣り上がりやすい、という理屈。意識して高額入札をしないと売買の機会を逃しやすく、利益を上げにくくなるので注意が必要

  • 一声形式の競りで、自分が最初の方に入札する場合

逆に以下のような場合は、適正価格内で低めの金額で入札するとよい。

  • 相場が低めのメンバーでプレイする場合
  • ゲーム参加人数が少ない場合
  • 残り枚数が少ない画家の絵画の場合

高値がつきそうな絵画や、自分が落札した画家の絵画を出品して、他プレイヤーに適正価格以上で落札させよう

最も重要な行動。なぜなら他プレイヤーへの絵画販売はラウンド終了時の売却よりも一般に大きな利益を生む上に、ラウンド終了時の売却と違って落札時点で利益が確定するのでリスクも小さいからである。*3

また、自分が落札した画家の絵画を出品した方がラウンド終了時の売却益含めて利益が大きくなるほか、高額で売れる絵画の方が利益は大きくなる。つまり、自分が落札した画家の絵画か、自分の手札の中でPが大きい絵画を出品して、\frac{P}{2}以上の範囲で他プレイヤーに落札させるのが安定行動である。ここで、利益を増やすためにチェックすべき事項を以下にまとめた。

  • 既に多く場に出ている画家の絵画を他プレイヤーに販売する
    場に多く出ている絵画はPが高い絵画となる。トレンドは1人では作れないので上手く便乗するのが大事

  • 自分が落札した画家の絵画を出品して、他プレイヤーに落札させる
    「同業者」「同担」を作り、その画家の絵画が出品されやすくなる状況を作ることができる。これは他プレイヤーへの販売利益を上げると同時に、ラウンド終了時の売却利益も上げられる強い行動だ

  • 自分で出品した絵画の自主買取はなるべく避ける
    適正価格未満の値しかつかなかったときは自主買取も仕方ないが、なるべく他プレイヤーに販売して利益を増やそう

  • 大きな利益や逃げ切りが見込めない限り、自分でラウンドを終了させない
    同じ画家の5枚目の絵画を出品すると、他プレイヤーへの販売機会を一度失うため、よほど大きなメリットがない限り避けるべき。特にダブル出しによるラウンド終了は非常に損失が大きいので可能な限り避けよう。また、初心者は利益を確定させるためにすぐにラウンドを終了させる傾向がある(ような気がする)ので注意しよう

  • 自分の経験上、ラウンド1枚目の出品やダブル出品の場合は公開競りで出品すると値段が釣り上がりやすい

  • 他プレイヤーの相場観が読み辛いときは、入札競り(クローズドオークション)が様子見に適している

  • 財布の紐が緩いプレイヤーが自分の左隣に近い位置に居る場合、公開競りか入札競りを、自分の右隣に近い位置にいる場合、一声競りがオススメ

  • 指値競りの出品はなるべく避け、もし指値競りで出品する場合は適正価格内でやや低めの価格設定にする。あくまで自分の経験則だが、左隣のプレイヤーがパスすると7割くらいの確率で全パスされ、自主買取になる

 

具体例

  • 1ラウンド目の最初にYokoの絵画が1枚、他プレイヤーによって公開競りで出品された。自分の手札にはYokoの絵画がなかったので、この絵画のPを控えめに1万ドル(出品数3位)と予測した。このとき、適正価格は5000ドル以上1万ドル未満であり、公開競りで1万ドル以上の値がついた時点で競りから降りるべきである

  • 2ラウンド目の後半、Lite Metalの絵画が場に4枚(うち自分落札1枚)、Yokoの絵画が場に3枚(うち自分落札1枚)出ている状態で自分の手番になった。自分の手札にはLite Metalの絵画が1枚、Yokoの絵画が3枚ある。このとき、Lite Metalの絵画を出品するとラウンドが終了してしまうため、基本的にはYokoの絵画を出品して利益を伸ばすべきである。Yokoは4枚出た時点で最低でも3位確定であるため、このラウンドでYokoは出品数2位になると予測した。Yokoの絵画には1ラウンド目で値がついていなかったため、適正価格は1万ドル以上2万ドル未満である。一声競りでの出品後、適正価格よりも高い2万2000ドルの値がついたので、他プレイヤーへの販売を決定した

  • 3ラウンド目の最初にLite Metalの絵がダブルオークション形式で2枚出品された。Lite Metalは1, 2ラウンド両方で1位を取っていたため、Lite Metalの絵画の残り枚数は2枚である。よって、これ以上このラウンドでLite Metalの絵画が出品されることはないため、この絵画のPを0ドル(出品数4, 5位)と予測した。入札は避けるか、せいぜい数千ドル程度の入札をするに留める

  • 4ラウンド目の最初に自分の1つ手前のプレイヤーが、Yokoの絵を指値競り、指定価格6万ドルで出品した。Yokoの絵画の3ラウンド目までの価格の合計は5万ドルであり、残り枚数は5枚である。自分はYokoのダブルオークションカードと公開競りカードを持っていたので、Pを高めに7万ドル(2位)と予測した。指値の6万ドルは適正価格内であったため、購入することにした。次の自分の手番ではYokoの絵画を出品し、1枚あたり3万5000ドル以上の価格で他プレイヤーに販売する予定である

 

その他のネタ

ある画家の絵画が場に合計3枚ある状況で、その画家のダブルオークションカードを1枚だけ出すという行動は強い。他プレイヤーがダブルオークションカードに絵画を追加すれば5枚目出品となりラウンドが終了し、次ラウンドでは絵画を追加したプレイヤーの次のプレイヤーから手番がスタートする。つまり、自分の次のプレイヤーから、絵画を追加したプレイヤーまでの全てのプレイヤーの手番が実質飛ばされることになる。一方、ダブルに絵画を追加しなければ、自分が無料でダブルカードを落札できる。いずれにせよ得をする確率が高い。

 

 

*1:ちなみにこれを理由に\frac{P}{2}が適正価格であるとする意見もあるが、誤っている。なぜなら、\frac{P}{2}が適正価格となるのは、モダンアートのプレイヤーが売り手と買い手の2人しかいない場合だけ(ナッシュ均衡)であるからだ

*2:厳密には売却価格の「期待値」を想定している。たとえば、1ラウンド目に出品された1枚の絵画について考えよう。「売却価格」としてあり得るのは0ドル、1万ドル、2万ドル、3万ドルの4種類しかないが、あるプレイヤーが「1万ドルの値がつく確率が20%、0ドルとなる確率が80%」と予想した場合、売却価格の期待値は2000ドルとなり、そのプレイヤーにとっての適正価格は1000ドル以上2000ドル未満となる。このように期待値の概念を用いて考えると、1000ドルでの入札のような中途半端な値付けが行われる理由がうまく説明できる

*3:絵画の取引が適正価格の範囲\frac{P}{2}以上P未満で行われ、ラウンド終了時の絵画の売却価格がPであったとする。このとき、売り手の利益は\frac{P}{2}以上P未満、買い手の利益は0より大きく\frac{P}{2}以下である