この記事では、2021年5月8日に発売されたバイオハザードシリーズ8作品目のナンバリングタイトル「バイオハザード ヴィレッジ」(バイオ8)のレビューを書く。結論から言えば、バイオヴィレッジはバイオ7を上手く進化させた良作であり、10点満点で言えば8点か9点くらいの作品だと感じた。
なお、重大なネタバレを含む箇所は記事の後半にあり、前後に長い空白を用意している。また、グロテスクな画像は載せていない。
なお、前作バイオハザード7レジデントイービルのレビューは以下の過去記事を参照してほしい。
△1周目、引き継ぎなしで最高難易度Village of Shadowsを初見クリアしたときのスクショ。今は商人禁止1周目Village of Shadows縛りのクリアをのんびり目指しているが、実質通常ナイフ縛りになる箇所が多く未達成のまま
評価点
ストーリー
- 親子愛のテーマが一貫している
- 先が気になる展開、意表を突かれる展開が多い
描写・演出
- グラフィックが前作より向上している
- イーサンの描写が増え、主人公らしい人物になった
- 武器商人の存在感が強く、印象的なキャラクターに仕上がっている
- 敵サイドのキャラの台詞が豊富
- 一部シーンのホラー演出が強烈
- マップごとに雰囲気が大きく変わり、新鮮な印象を受ける
戦闘
- 攻撃手段が前作より増え、戦闘の幅が広がった
- 操作キャラの移動速度が前作より大幅にアップし、スピーディーな戦闘ができる
- ザコ敵が全体的に強く、ボス戦以外も緊張感がある
- 格闘攻撃が消極的に狙う程度の強さに留まっており、雰囲気を壊さない
- 武器商人が追加され、アイテムの購入や売買、武器改造ができるようになった
- 武器商人から買えるアイテムが大きく制限されており、バランスが壊れにくい
- クラフトできるアイテムが増え、自由度が上がった
- 敵の移動範囲が前作より広がった
- 難易度のバランスが良く、序盤から終盤まで程よく難所がある
- 高難易度にすると一部の敵の配置が変わる
- 多様な縛りプレイができ、実績も豊富
- 弾倉空時のリロードと弾倉に弾が残っているときのリロードの動作が変わるようになった
その他
- 前作よりも待ち時間が少なく、ゲームプレイの密度が高い
- マップが広く、探索できる箇所が多い
- マップがシームレスに繋がっており、ロード用の道やエレベーターなどが少ない
- 工夫次第で一部の謎解きをスキップでき、周回プレイしやすくなった
- 回復の仕様がシンプルになった
- 「今はどうしようもないが後々行けるようになる」場所が満遍なく用意されている
- ストーリーの進行具合に合わせて敵やアイテムが再配置される
- ドアの開閉が前作よりスムーズにできるようになった
- 意図しない落下が起きるような地形がない
問題点
ストーリー
- 一部の登場人物の行動が不可解
- 娘を救うストーリーなのに、娘のシーンが非常に少なく印象が薄い
- ストーリー上重要な要素が謎のまま終わる
- 武器商人になぜ相談をしないのか分からないシーンが多い
- 終盤で明かされる事実の伏線が少ないせいで、唐突な印象を受ける
描写・演出
- 前作よりホラー演出が大きく減った
- 前作より孤独感が薄く、不安や不快感を受ける場所が前作より減った
- 外気に弱い敵が巨大な天窓のある部屋で待ち伏せするシーンがあり、不自然
- 全く同じ座標に爆撃するのに毎回座標を指定するシーンがあり、不自然
- 敵の一部モーションが使い回されている
- 一部のキャラデザインに盗作疑惑がある(参考)
戦闘
- 敵の行動範囲が限られており、仕様の穴を突いた攻略がほぼ全編で可能
- ボス戦ではこちらが待機するしかない時間が長く、ダレる
- ボスの行動パターンがあまり変わらないのに体力がやたらと多く、ダレる
- ボス敵に対し、こちらの銃撃が当たっているか分かり辛い
- ザコ敵もボス敵も一定のパターンにハマりやすい
- 走って通り抜けると敵が目の前にスポーンする場所がある
- 一部箇所でリスタートすると敵がリス狩りしてくる
- 一部武器の射撃後の硬直が異常に長い
- ガードを挟まないと近接武器を最速で振れない
- フレームレートによって移動速度や敵とのぶつかりやすさが変わる妙な仕様がある
- 弾は捨てられるのに武器やアタッチメントは捨てられない
- 武器商人部屋など、完全な安全地帯が増えた
- 突破条件が分かりにくいイベント戦闘がある
- リロードを先行入力できない
- バイオ7やRE3に比べると、高難易度における難易度の上げ方が雑
- 高難易度では一部の敵の体力が高すぎてスルー以外の選択肢がなくなっている
- 一部の武器アタッチメントと効果が整合していない
- 炸裂弾や閃光弾のクラフトになぜかハーブが必要
- 炸裂弾と閃光弾のアイコンが分かりにくい
- 一部武器ではコッキング動作をキャンセルしても、弾倉に弾が残っているときのリロードより弾倉空時のリロードの方が時間がかかって少し不自然
- 階段で敵のつかみ系の攻撃がスカる
- つかみ系の攻撃をガードするとノーダメージになるが、明らかにノーダメージで済むのがおかしい攻撃がある
- 「押し返す」の操作説明が、もう押し返す操作ができない時点でも表示され続けるせいで混乱を招く
- 半開き状態のドアをしゃがみながら押すと、ドアの反対側の敵がハマる
その他
- ボリュームがやや少なめ。最短クリアを目指すと1周あたり2時間弱程度
- 一度調べた戸棚や引き出しを元に戻す操作が可能だが、全く使う必要がない
- 食材の納品システムがデメリットしかなく、全く役に立たない
- フォトモードがあるが、主人公を表示できない上にカメラの可動範囲が小さく使い所が無い
- マーセナリーズモードがあるが、プレイングの幅が狭く面白くない
- プレイ内容が全く変わらない箇所が多く、周回プレイ時の作業感が強い
- ムービーがどの時点からスキップできるか分かり辛い
- ムービー中もダメージを受ける仕様があり、スキップしないと危険なムービーがある
- 推奨スペックを十分に満たしたPCでもたまにフレームレートが著しく下がったり、背景オブジェクトの描画が間に合わなかったりする
- アタッシェケース画面のUIがなぜか4作品前のバイオ4より大幅劣化している
- PC版のアタッシェケース画面でカーソル操作よりもマウスポインタ操作が優先される
- PC版の「戻る」操作が右クリックだったりEscキーだったりとバラバラ
- PC版の初期マウス感度が異常に低く、再設定必須
- PC版でもセーブデータを20個しか作れない
- 一部の実績がただの作業ゲー
- 特定の実績の説明が少し不親切
- 謎解きやパズルが少ない
- 一部の謎解きのヒントがミスリードしている
- 一部シーンの進め方次第で字幕が重なるバグがある
- 特定の場所で自爆すると操作キャラが壁を貫通するバグがある(参考)
- 特定の動作中にアタッシェケース画面で「装備する」「使う」を押しても装備や使用ができず、そのままゲームが続行されるバグがある
前作との違い
バイオヴィレッジ(バイオ8)のゲームシステムの多くは前作バイオ7に準拠している。バイオ7と同じくFPS視点のサバイバルホラーゲームであり、敵の攻撃をガードでき、主人公は一般人システムエンジニアのイーサンである。戦闘システムは硬派で、バイオ4,5,6にあったようなスタイリッシュな格闘攻撃はなく、主にエイムや移動、ガードの精度を問われる。というわけでここでは、前作バイオ7から変わった点をピックアップしてみる。*1
まず、前作では工夫の余地が少なかった、探索や戦闘の幅が広がった。マップは前作より遥かに広大になり、本編と直接関わらないような場所も多数用意されている。おそらく歴代バイオの中で最も「有意義な寄り道」ができる作品ではないだろうか。広大なマップに合わせたのか、操作キャラの移動速度が前作より大幅に上昇し、比較的ストレスなく探索できる。そして主人公の移動速度UPに合わせて戦闘はスピーディーになり、主人公が取れる行動や武器の種類が増え、敵の体力が移動速度が大幅に強化されたため、戦闘の幅も広がった。
△ガード直後に「押し返す」格闘攻撃ができるようになった。しかしダメージを与えるわけではなく、(最高難易度で敵の武装を解除したい場合など、かなり限定的な場面を除いて)積極的に狙う行動ではない。雰囲気を壊さない程度の強さにうまく収めている
そして武器商人が追加され、どの武器を買ってどの項目を改造強化するか、プレイヤーが取捨選択する余地が増えた。前作には無かった「お金」や「宝物」を入手できるようになり、探索の楽しみを増やすのにも一役買っている。特にバイオ4の商人周りのシステムが好きだった人は気に入るだろう。なお、商人の影響が大きい一方で、弾や回復を無制限に買ったり最初から威力を大幅に上げる改造をしたり、ゲームバランスを壊すようなことは1周目ではできない点も評価が高い。丁寧に探索をしても多少金回りに余裕が出るだけで、大幅にヌルゲー化することはない。
△改造項目は威力、連射速度、装填速度、装弾数の4つ。威力一辺倒ド安定かと思いきや、DPSが必要になる場面も多いのでそうでもない
さらに、主人公のイーサンの描写が前作より圧倒的に増えた。戦闘慣れしていない一般人でありながら、娘を救うために戦う不撓不屈の主人公として描かれる。前作のイーサンは口が悪い以外の特徴がほとんど無かった上に、恩人にろくに感謝せず悪態をつくなど性格面に難があり、個人的にも好きなキャラクターではなかった。しかし、今作のイーサンなら好感が持てる主人公らしい人物に仕上がっていると言えるだろう(勿論恩人にはちゃんとお礼も言う)。また、武器商人のデュークも個性的な新キャラクターだ。孤立した状況下でイーサンに協力してくれるデュークの存在感は大きく、物語にもしっかり関わる重要人物である。
△あくまで商売の一環とはいえ、イーサンを各所でサポートしてくれる武器商人のデューク。人によっては冗談交じりに「今作のヒロインはデューク」と言うが…あながち否定できない
加えて、やり込むプレイヤーにとっては嬉しいことに、前作より周回プレイしやすくなっている。スキップできるシーンが前作よりも増え、先の展開が分かっていれば時短できる箇所がいくつかある。前作では約2時間のプレイ時間のうち30分以上は飛ばせないムービーシーンや待ったり歩いたりするだけのシーンだったことを考えると、周回プレイを阻害する要素は減ったと言える。
しかし、逆に前作から劣化した点も残念ながら存在する。たとえばホラー演出は前作より圧倒的に少ない。前作では様々な角度から恐怖を演出していたが、今作はそもそもホラー演出が存在する箇所が非常に少ない。バイオ7では沢山あった「その場所を歩くだけで不安になる」ような場所もほとんどない。
△公式動画。怖すぎた前作の反省を受けて作ったらしいが、本当に今作は前作よりは怖くない作品になっている。ある意味万人向けになったと言えるのだろうか?
また、登場人物の不可解な行動が増えてしまった。前作の登場人物は大半が狂気に侵されていた上に行動原理が単純だったが、今作は敵含め理性を保った人物が多いため、行動の理由がしっかり説明されない人物についてモヤモヤが残る。詳細は後述のストーリーのレビューで書く。
描写・演出
グラフィックは前作より(おそらく)向上し、アップの表情や遠景も綺麗に描写されるようになった。特別美麗というわけではないが、現代のゲームとして十分通用するレベルだと思う。
△前作では遠景がしっかり描写されないことも多かったが、今作ではおおよそ問題ない
今作で特に気に入っているのは主人公イーサン関連の演出。イーサンの台詞が多く、武器商人との会話、クリスとの会話、敵との会話が沢山聞けるようになった。数々の台詞からは、強大な敵にも強気な態度を崩さない主人公らしい熱い性格が感じ取れる。前作からあった口の悪さは健在だが、今作ではその多くが敵に向けられるので不快感は少ない。遭遇した民間人を助けようとしたり、恩人に感謝を伝えたり、常識的な善人としての描写も含まれており、感情移入しやすいキャラクターになった。
難点は前述の通りホラー演出が少ないこと。ただ、ホラー演出は周回プレイやアクション要素との相性が悪い点には留意する必要がある。また、ホラー演出は少ないが無いわけではなく、局所的に怖い箇所は存在する。
戦闘
戦闘はシンプルなシステムでありながらよく出来ている。基本的に普通のFPSで、特殊システムとしてガードとガード後の押し返しがあるが、ほとんどの攻撃はガードしてもダメージを食らう上、押し返しは敵にダメージを与えるわけではないので積極的に仕掛ける行動ではない。エイムや移動の精度を純粋に問われる硬派な作りと言える。
そして敵は全体的に強く、特にザコ敵が強い。主人公の移動速度が前作より大幅にアップしたにもかかわらず、戦闘の難易度は前作より上がっている。ザコ敵が強いことでボス戦以外にも緊張感が生まれ、敵の弱点を狙ったり爆発物で効率よく倒したり一目散に逃げてしまったり、プレイヤーに自然と思考を促してくる。
また、前作と異なり敵を倒すとアイテムがドロップするようになったが、採算が合わないため稼ぎ行為の類はあまりできないバランスになっている。そして部屋がロックされて敵が投入される陳腐な強制戦闘は少なく、なるべくプレイヤーに自発的に戦闘させる前作の長所は残っている。
△バイオヴィレッジを象徴するザコ敵「ライカン」。ザコと言っても高難易度では非常に強く、素早いステップを多用し、ショットガンすら躱すことが多々ある。タイマン勝負すら序盤の武器ではノーダメ難、2体出てくると撤退濃厚の局面となる。こんな敵が序盤からワラワラ出てくる
しかし、敵の行動範囲が限られており、敵の管轄エリアから出入りを繰り返すことで楽に攻略できてしまう箇所が全編にわたって存在する。この手のゲームではよくある仕様であり、なるべく意識させないよう前作よりは工夫しているものの、この仕様を利用すると戦闘の緊張感が大きく削がれてしまう。特に武器商人部屋は完全な安全地帯になっており、しかもそのことが簡単に分かる設計になっている。せっかく各地に存在する隠しボスも、こちらが少し離れるだけで元いた場所に撤退していくためさほど脅威を感じない。勿論、敵のHPが回復する仕様も無い。
また、ボス戦が間延びしてダレやすい。特に高難易度では顕著で、相当な火力を投入してもボスの行動パターンが何も変わらない。ボスに攻撃を当てたときのエフェクトが非常に分かりにくいこともあり、本当に攻撃が通っているのか不安を覚えながら戦うことになる。また、どのボスもこちらに待機を強要する攻撃や行動パターンを持っていることも退屈さに拍車をかけている。
その他
前作の最大の難点であったボリューム不足は少し改善された。探索箇所が増え、戦闘が増え、武器商人が追加され、おまけモードのマーセナリーズも遊べるようになった。
ただし、急ぐと引き継ぎ無しの1周目最高難易度ですら2時間もかからず終わってしまう点は前作同様。寄り道できる箇所は増えたがクリア上必須の箇所はあまり増えていない。また、ゲームプレイの密度は前作より大きいものの、何周目でもどんな装備でもやることが変わらない所が中盤に固まっており、周回プレイ時に作業感を覚える。
△記事投稿時点での最高難易度1周目タイムアタックの世界記録動画。寄り道の類はほとんど無い。海外版につき閲覧注意
以下、ストーリーのネタバレあり。
ストーリー
あらすじ
まず、今作のストーリーをざっとさらっておく。前作でベイカー邸から生還した主人公イーサンは、妻のミアと娘のローズと東ヨーロッパで平和に暮らしていた。しかし、クリス率いるハウンドウルフ隊の襲撃を受け、ローズとともに拉致されてしまう。
だが護送車が事故に遭い、放り出されたイーサンは付近の寒村に辿り着く。そこで凶暴な人型の怪物「ライカン」の襲撃を受けるものの、辛くも生き延びたイーサンは偶然出会った老婆からローズが村にいるという情報を得る。村を探索するうちにドミトレスク城に入ったイーサンは、村を支配するマザー・ミランダと4人の貴族に捕えられる。
拘束から抜け出したイーサンは、道中出会った武器商人デュークの提案に従い城内でローズを捜索する。貴族の1人である城主ドミトレスク夫人やその娘達に命を狙われるものの、イーサンは彼女らを返り討ちにし、「ローズの頭部」と書かれたフラスクを入手する。
デュークによると、フラスクに身体をバラバラに格納された状態でもローズは生きているという。デュークと老婆から助言を得て、ローズを元に戻すには貴族達が持つフラスクが必要だと知ったイーサンは、残りの貴族達から全てのフラスクを取り戻す。
貴族達との戦いに勝利した直後、イーサンはミランダと遭遇する。ミランダは自らの「特異菌」の能力でミアに擬態してイーサンの家庭に潜入していたこと、自分と同じく特異菌の力を持つイーサンを試すため、老婆に化けてイーサンを貴族と戦うよう誘導したこと、力量が判明したイーサンは用済みとなったこと、特異菌の強大な力を持つローズを依代にして大昔に死亡した自分の娘エヴァを蘇らせることをイーサンに話す。イーサンはミランダを止めようとするが、圧倒的な力を持つミランダに心臓を抉り取られ絶命してしまう。
しばらくして、イーサンは精神世界で目を覚ます。イーサンが感染した特異菌を生み出したエヴリンが現れ、イーサンがベイカー邸で既に死亡していたことを告げる。イーサンは戸惑いながらもローズを救う一心で復活し、デュークの協力を得てミランダの居る祭祀場に向かう。
祭祀場では、ミランダが村の地下に眠る菌根を活性化させ、エヴァを復活させるための「儀式」を催していた。ミランダはイーサンが集めたフラスクを使ってローズの体を復元し、菌根に記録されたエヴァの意識を植え付け、ローズをエヴァとして転生させようとする。しかしローズの能力が強すぎたためか、エヴァの意識を継承せずローズは復活し、ミランダの力を奪い取っていく。
ちょうどそのとき、イーサンが祭祀場に到着する。イーサンは死闘の末ミランダを退けローズを救出するが、満身創痍のイーサンの肉体は既に崩壊を始めていた。駆けつけたクリスの協力を得て村からの脱出を試みるが、意識が菌根と融合し暴走状態となったミランダの妨害を受ける。イーサンは、クリスが菌根に仕掛けたN2爆弾の起爆装置を奪い、ローズをクリスに託して村に残る。クリスらの脱出後、イーサンはN2爆弾を起爆し、菌根やミランダを道連れに死亡する。
ストーリー上の問題点
「主人公イーサンが娘のローズを救う」という、前作同様ストーリーの骨子は非常にシンプル。親子愛のテーマが一貫しており、エンディングも印象的で良かったと思う。
ただ、取ってつけたような唐突な設定は蛇足だと感じた。たとえば「イーサンはベイカー邸で死亡していた」ことが終盤明かされるが、伏線と言えば死肉に群がる蝿をベースとした敵がイーサンの血を美味だと評することくらいで、前作から見せていたイーサンの超人的な回復力も「特異菌の感染者だから」で十分説明がついていたため、この設定の必要性は薄い。イーサンの性格を考えると、エヴリンの話を盲信して自爆を決めたとも考えにくい。
また、終盤の資料で「ミランダがスペンサー卿の師であった」ことも明かされる。スペンサー卿はシリーズ最初のバイオハザード事件を起こしたアンブレラ社の創設者の1人であり、過去作に数々の描写があるものの、この事実を示唆する布石は無い。矛盾こそ無いものの後付感の強い設定である。
ほかにも、気になる奇妙な点がある。以下に詳述する。
- ミランダがわざわざイーサン宅に潜伏した理由が不明
ミランダはエヴリンを作り出した機関「コネクション」からローズの情報を得ていた。ローズの誘拐を計画したミランダは、まずイーサンの妻ミアを誘拐し、ミアに擬態してイーサン宅に潜入する。
しかし本編で描かれる通り、ミランダは自分を崇拝する村人だろうと養子だろうと、平気で殺害するほどの非道な人物である。なぜ彼女がこのような回りくどい計画を立て、イーサンと呑気に家族団欒を楽しんでいたのか理解に苦しむ。たまたま当時夫婦間にトラブルがあったためイーサンに擬態は露顕しなかったが、数日もイーサン宅に潜伏したせいでミランダはクリスの襲撃を受け、当初のローズ誘拐計画は失敗してしまう。 - 序盤のクリスの行動が不注意すぎる
ゲーム冒頭でクリスはイーサン宅を襲撃し、ミアに擬態していたミランダの頭部に銃撃を浴びせる。このときミランダの「死んだふり」に騙されたクリスは、あっさりミランダを逃亡させてしまう。
普通の私兵ならともかく、「頭に5発撃ち込んだ」程度では容易に蘇生する強靭な生物兵器と何度も戦ってきたクリスにしては、あまりに迂闊なミスと言える。しかもミランダの擬死体には特異菌感染者特有の死亡時の石灰化が発現していない。ミランダを逃したせいでイーサンだけでなく多数の村民も犠牲になったことを考慮すると、この失敗の影響は大きい。 - デュークがイーサンにフラスクの回収を勧めた理由が不明
武器商人のデュークについては多くが謎のまま終わるが、貴族からフラスクを回収するようイーサンに助言した点は特に不可解。後で分かるようにフラスクからローズを復元できるのはミランダだけなので、フラスク回収それ自体に大した意味はなく、老婆(ミランダ)がイーサンを貴族に差し向けたのは試練としての意義があった。しかし、デュークが助言をした理由は結局分からない(商売の機会を増やそうとした、貴族の遺品を狙っていたなど、想像はできるが)。 - 貴族の1人が対抗手段にならない方法でミランダへの反逆を企てる
貴族の1人であるハイゼンベルクはミランダと面従腹背の関係にあり、サイボーグ兵「ゾルダート」を量産し、反逆の機会を伺っていた。
しかし、ゾルダートの制御機構を「カドゥ」という、ミランダが自身の支配を広げるため作り出した寄生体に依拠してしまっている。同じくカドゥを身に宿すライカンがミランダの命令に従うことを考えると、ゾルダートはミランダへの対抗手段になるどころか逆にミランダに利用されかねず、対抗手段として不適切である。
以上、ストーリーのネタバレ箇所終わり。
総評
本作バイオハザードヴィレッジは、前作バイオハザード7の多くのシステムを踏襲している。しかし、前作では工夫の余地が少なかった戦闘や探索の要素が大幅に強化され、武器商人が追加され、主人公イーサンの描写が圧倒的に増えた。ホラー要素は減ってしまい、明らかにされない謎や登場人物の不可解な行動が多くあるものの、バイオ7のゲームシステムの良さを保ちつつ、様々な要素を追加して深みを増した作品である。バイオシリーズはモデルチェンジ無しにナンバリングを重ねると妙な方向に迷走することがあるが、今作は前作を真っ当に進化させた良作と言えるだろう。
*1:ストーリーもバイオ7から続いており、初回起動時にバイオ7のあらすじムービーを見ることができる