応用情報技術者試験 約9割得点するまでにやったこと
この記事では、令和5年秋期の応用情報技術者試験で午前90点午後87点を得点して合格した自分が、8月上旬から10月上旬までの約2ヶ月の勉強期間で何をしたか書く。当然、同じことをしたとしても次回以降の試験で同じくらい得点できるとは限らないが、参考にしてほしい。
ちなみにIPAの統計情報によると、午前90点は全体の上位0-0.1%程度、午後87点は全体の上位0.4-5.0%程度に属する模様。IPA試験の受験は今回が初。*1
1. 試験の特徴を把握する
勉強期間のどこかで、応用情報技術者試験がどのような試験なのか把握する必要がある。自分は問題演習をしながら経験的に特徴を把握したが、今振り返るときちんと意識して最初に把握すべきだったと思っている。
自分が感じた試験の特徴は以下の通り。
- 出題範囲が広い
- 試験時間に余裕がある
- 個々の問題の難易度が低い
つまり出題範囲の広さが難易度を上げている主な要素と言える。時間に余裕があるので解答ペース配分の練習はあまり必要ないし、正解を見ても理解不能な難易度の問題はまず無い。どこかで行き詰まったときは、その分野の基礎のインプットが足りているか確認すべきだ。
また、試験は午前午後の2パートに分かれている。午前試験は約5割程度の問題が過去問使い回し(選択肢まで完全一致)の手抜きマークシート式試験であり、基礎的な知識や簡易な計算が問われる。80問の四肢択一問題なのに試験時間は2時間半もあり、合格ラインは6割と温情。なお、他のIPA試験にあるような午前試験の免除制度は無い。
午後試験は解答分野を選択する記述式試験であり、午前試験より数ステップ多い計算問題や数十字程度の記述、記号の選択問題等が出題される。午前と同じく試験時間は2時間半で合格ラインは6割。試験の大問は11の出題分野ごとに1つずつ出されており、セキュリティのみ必須解答、残り10の分野のうち4つを選択して解答する。
総じて、基礎と過去問が大事な至極普通の試験と言える。強いて言えば午後試験の選択分野を決める所がやや特殊だが、この点については後述する。
2. 勉強メモを取りながらテキストで体系的に勉強する
過去問の学習を始める前に、広範な基礎事項を一通り学習するため試験用のテキストを1冊丁寧に仕上げた。なお公式テキストは無い模様。
令和06年【春期】【秋期】 応用情報技術者 合格教本 情報処理技術者試験 Kindle版
自分は上記シリーズのテキストの令和5年・Kindle版を使用したが、試験範囲をカバーしているなら何でも良いと思う。自分はまずテキストを軽く通読し、その後にGoogleドキュメントで勉強メモを取りつつ2周目の通読をした。ちなみに上記のテキストを使う場合は、表形式で書かれている用語集の類は暗記まではしなくてよい。午後試験の選択によっては全く問われないこともあるからだ。
どのテキストを使うかよりも、少しでも疑問に感じたことや理解が足りないと思ったことを独自に調べ、勉強メモに追記することが重要だと感じた。応用情報技術者試験の範囲は広大であり、おそらくどんなテキストを使ってもそれ単体では十分な理解に至ることはない。自主的な勉強により適宜補完していこう。*2
なお、自分が実施したこととは異なるが、もし余裕がある場合はデータ分析の基礎を追加で学習するのがオススメ。最近は午前午後両方でデータ分析がしばしば問われている上に、前述のテキストではデータ分析の解説が不足しているからだ。実際、応用情報技術者試験ドットコム自己採点では、主成分分析の概要を問う令和5年秋期午前問2の誤答率が95%を超えていた。多くの受験者にとって対策が必要なことが窺える。
△令和5年秋期午前問2。データ分析の経験があればボーナス問題だ
3. 午前試験の過去問を解き始める
一通り試験範囲を学習した後に、応用情報技術者試験過去問道場で午前試験の過去問を解き始めた。もちろん一気に解いたわけではなく、この時点から受験の時点まで継続的に少しずつスマホブラウザから解答を続けた。
過去問道場はランダムに1問ずつ過去問を出題・採点してくれる極めて有用なサイトで、試験回や分野、正解済かどうかでフィルタすることも可能。前述の通り、午前試験は時間に非常に余裕があるため、わざわざ試験と同様の形式で演習する必要は全く無い。隙間時間も活用して少しずつ解答を進めていくのが楽で効率的だと感じた。
改めて強調するが、午前試験は半分程度の問題が過去問の使い回しであり、過去問は非常に重要。一度見た問題で失点することが無いよう、不正解箇所や理解が怪しい箇所は必ず復習しよう。
△過去問道場の試験回フィルタには「オススメ」の設定がある(画像右下)。迷ったらこの設定を使うとよい
4. 選択分野候補を絞って午後試験の過去問を解く
午前試験の過去問を解き始めた後、テキストと過去問道場で1, 2年分の午後試験過去問を全分野について解いた。そして以下のように選定した選択分野候補それぞれの5-10年分の過去問を過去問道場で解いた。
- (セキュリティ) ※必須枠
- 経営戦略
- プログラミング
- システムアーキテクチャ
- データベース
- 組込みシステム開発
なお、時間には比較的余裕があるものの、2時間半で大問5つを解く本番に合わせ、過去問の大問1つあたり25-30分程度で解くことを意識した。
大事なのは、必須枠のセキュリティ以外に選択分野候補を5つ選ぶことと、全分野の午後試験の過去問を少し解いてから候補を絞ること。実際に試験で選択できるセキュリティ以外の分野は4つだけだが、5つ候補があれば本番で1つ相性の悪い大問にあたっても別の分野に切り替えられる。実際、自分は本番で経営戦略の感触がイマイチだったが、バックアップとしてデータベースの過去問演習をしていたためそちらに切り替えられた。もちろん6つ以上候補を選んでもいいが、その分過去問を解く負担が増えるので注意しよう。
ネット上には分野を選ぶ上での参考情報が色々転がっているが、実際に全分野の過去問を少し解いて感触を確かめるべきだと感じた。自分は当初システムアーキテクチャや組込みシステム開発を選ぶ気は全くなかったが、過去問での感触が良かったので選ぶことにした。以下に各分野の所感を載せるが、あくまで参考程度にしてほしい。
セキュリティ
必須枠であるため選択の余地は無い。午後試験の過去問を10年分程度は解いてしっかり対策しよう。なお、暗号技術の基礎理論に興味があれば、以下の書籍が平易でオススメ。
経営戦略
ビジネスのマクロ分析や財務諸表に馴染みがあるならオススメ。おそらく簿記等の資格を持っているなら安定択だと思われる。通称「国語問題」と呼ばれる単なる読解だけで解ける問題も珍しくない。なお、財務諸表については以下の書籍が平易でオススメ。
会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方 Kindle版
プログラミング
プログラミング経験が豊富ならオススメ。ただし、紙の上でコードを書くのは実際のプログラミングとはかなり感触が異なる。さらに、wikipediaのようなコード記法や、間怠っこく感じられる実装方針にも慣れる必要があるため、過去問演習は重要。競技プログラミングの知識が役立つ箇所も多いため、余裕があればAtCoder等を体験してみてもいいかもしれない。
システムアーキテクチャ
平易な問題が多くオススメ。開発要件に関する計算問題や、読解系の国語問題がメイン。煩雑な計算は全く求められず、何を計算すべきか問題文から落ち着いて読み取れれば解ける。知識面もクラウドやネットワークに関する午前試験程度の対策をしていれば十分。
ネットワーク
得意でない限り非推奨。午前試験よりもやや深い知識を求められる印象がある。自分は午前試験過去問の時点で相性の悪さを感じ、午後試験過去問でもそれは変わらなかったので早々に候補から外した。
データベース
SQLやER図に慣れているならオススメ。自分はSQLには慣れていたが、ER図には不慣れだったためバックアップとして選択した。SQLは実際に自分でコードを書いて動かしてみないと把握し辛いため、未経験者はオンラインの学習サイト等を使って練習するのが良いかもしれない。
組込みシステム開発
平易な問題が多くオススメ。状態遷移図や動作説明の穴埋め問題、開発要件に関する計算問題がメイン。システムアーキテクチャと同じく、必要な知識は午前試験程度で、煩雑な計算は求められない。
情報システム開発
組込みシステム開発の上位互換の難しさであるため非推奨。設計資料・状態遷移図・実装コードなど出題の対象が広い。過去問を最低5年分くらい解いて、それでも感触が良ければ候補に入れていいだろう。
プロジェクトマネジメント
得意でない限り非推奨。長めの記述問題や要求知識が多く、計算問題もよく出題される。午前問題レベルの知識ではやや厳しいと感じた。問題を一瞥して記述問題だけなら挑戦、といったアプローチでも良いかもしれない。
サービスマネジメント
得意でない限り非推奨。用語に関する選択問題が多く、たまに計算問題が出る。プロジェクトマネジメントと同じく長めの記述問題や要求知識が多い。大事故防止のため記述問題の部分点狙いで選択するのはアリかもしれない。
システム監査
関連分野の経験があるならオススメ。監査で行うことやチェックすることは大体決まっている上に、セキュリティと重複する範囲も多い。記述が比較的短めというメリットもある。
余談 応用情報技術者試験の感想
「何か資格でも受けてみようと思った」「名前を聞いたことがあった」という雑すぎる理由で急遽受験を決めた応用情報技術者試験だったが、学習を通じて得られたものは思ったよりも多かった。
ゲートウェイやMACアドレスなど、日常で聞きかじって都度調べていただけの断片的な知識が、学習を通じて体系的に繋がっていく感覚を幾度となく覚えられた。体系的に把握していると思っていたプログラミング周りの知識も、今一度整理すると抜け漏れや理解不足に気付くことができた。恥ずかしながら、確立された手法の存在すら知らなかった見積もり等の分野についても新しく勉強できた。
この試験の合格実績それ自体が大きく役立つ機会は自分には無さそうだが、専門家に大迷惑をかけない程度の最低限の"教養"を消極的に証明する手段として使えると思う。また、合格実績自体にさほど意味がなくとも、情報処理関連の様々な基礎分野を一通り学習し、知識を体系的に整理した経験は有用だと感じる。事実、自分はこの試験を受けなければネットワークやマネジメントに関して素人同然の知識しかないことを意識すらしなかっただろう。
総じて、情報処理関連の雑多な知識を整理しきれていない自分のような者には、特に推奨できる試験と言える。興味をもった人は、是非IPAのサイトから受験申込をして合格してきてほしい。