【バイオハザード7】レビュー:ボリューム不足は否めないが、バイオの新しい可能性を示した良作【ネタバレ対策済】
2017年1月26日に発売した、バイオハザード7レジデントイービル(英題 Resident Evil 7: Biohazard)のレビューを書く。PC版はまだDLCを遊べない状態なので本編のみのレビューとなる。ネタバレ事項を含む箇所は折り畳んで記載した。折り畳みボタンをクリックorタップすれば見られるようになっている。また、グロテスクな画像は載せていない。
ここで折りたたみボタンのテストができる
結論から言うと、バイオ7は良作であり、個人的にかなり高い評価を与えている。レビュー記事の投稿が遅れたのも、私自身がドはまりして他のゲームを控えて20周以上縛りプレイをしていたからで、特典アイテム無し最高難易度タイムアタック(Resident Evil 7 New Game Madhouse IGT Speedrun)で世界記録を取るという目標を達成したため、現在この記事の作成をしている。
なお、次回作バイオハザード ヴィレッジ」(バイオ8)のレビューは以下の過去記事を参照してほしい。
ゲームの概要
バイオハザード7は2017年1月26日に発売された(海外版は24日発売)バイオハザードシリーズの4年振りのナンバリングタイトルであり、FPS形式のサバイバルホラーゲームである。バイオ4, 5, 6で続いたTPS形式から大きくモデルチェンジした作品になっており、バイオシリーズ初のVR版も発売されている。
評価点
- 比較的シンプルなシナリオで理解しやすい
- 従来のバイオと違いキャラゲーの要素が減った
- 敵サイドのキャラクターに魅力がある
- ホラー演出が多彩で、しかも無理矢理見せようとしていない
- 「影」の使い方が上手い
- マップがシームレスに繋がっている
- 敵との戦闘や、弱点部位への攻撃に自然と誘導している
- 弾薬や回復のクラフトが楽しい
- 謎解き要素の量や難しさが丁度良い
- ストーリー上の誘導が親切でやり過ぎていない
- 難易度のバランスが良い
- 高難易度にするとゲーム内容が変わる
- 多様な縛りプレイができる
- どの武器も個性が強い
問題点
- エンディングがやや理不尽
- 主人公サイドのキャラクターの描写が薄い
- 全体的にグラフィックがイマイチ
- 非グロ版のグラフィックが手抜き仕様
- グラフィックの貫通バグが多い
- アイテム取得SEが聞き取りにくい
- 操作性が悪い
- UIが不親切
- 四つ脚モールデッドが他の雑魚敵に比べて強すぎる
- 特定の行動中の敵を倒すことができない
- 「読み込み」を強く意識させる仕様がある
- 難易度が中盤から終盤にかけて先細り気味
- ボリューム不足
- 周回前提の割に序盤の待ち時間が長い
- セーブポイントを14箇所しか作れない
- PC版、Xbox版のDLCリリースが遅い
詳細レビュー
ストーリー
今作のストーリーは短くシンプルにまとまっており、比較的理解しやすいように感じた。導入部分も、3年間失踪していた妻のミアから連絡があったので、主人公のイーサンがルイジアナ州の廃屋に迎えに行くという、シンプルなもの。
問題はエンディング
今作はリベレーションズ2のようにED分岐がある。体内の特異菌を除去できる血清が一人分しかない状況で、特異菌の感染者であり、イーサンの妻であるミアに血清を打つか、同じく感染者であり、血清の作成やイーサンの脱出の手助けをしてくれたゾイに血清を打つか選ぶ場面がある。ここでミアとゾイのどちらを選んだかでEDが変わる。
ミアを選んだ場合、最終的にミアと脱出するハッピーエンドとなる。そしてゾイを選んだ場合はミアが死亡し、ゾイも血清の効果が現れる前に特異菌が活性化して死亡するという、虻蜂取らずのバッドエンドとなる。
つまり、実際はゾイに血清を使ったときだけ誰も救えない結末となる。一応「手遅れでなければ血清で治療できる」という情報がゲーム内で与えられるため、ゾイだけ既に手遅れだった可能性もあるが、ゲーム冒頭に突如豹変してナイフやチェーンソーでイーサンに襲いかかり、異常な耐久力や再生能力を得ていたミアよりも、常時平静を保っているゾイの方が特異菌の進行が遅れていると考えるのは自然な推測であり、ゾイを助けられないのは理不尽ですらある。
さらに、感情的な面でもミアよりゾイを助けたくなる描写が多い。ミアは今作発売前に発表されたコンテンツ「KITCHEN」にて一般人2人を刃物で惨殺している。イーサンがミアに失踪した理由や自分を襲った理由を尋ねても「覚えていない」の一点張りで、脱出や治療の手助けになることもほぼない。ミアの評価が上がるのは、ミアが敵だらけの危険な廃船を命懸けで探索してイーサンを助ける場面しかないが、これはED分岐点の後に存在するため、初見のプレイヤーは当然考慮に入れることができない。このようにミアではなくゾイを選ぶ理由も十分に与えながら、ゾイを選んだプレイヤーにだけ予測困難なバッドエンドを与えるのは、やはり理不尽に思える。
そして、ミアが廃船に連れ去られたイーサンを助けに行く場面も、ミアに血清を打っていれば自然に繋がるものの、ゾイに血清を打っていた場合は、遠くのボートハウスに取り残されたはずのミアが、突如廃船の傍で目を覚ます場面に不自然に繋がるという問題点もある。ちなみにタイムアタックをする場合、タイムの都合上ミアルート以外の選択肢は無い。
キャラクター
私はバイオというとキャラゲーの要素が強いイメージを持っていたが、今作は登場人物が少なく、かつ新規の人物ばかりである。旧作のキャラクターに頼らない方針でもバイオシリーズはやっていけることを今作で証明したと言える(しかしゲーム中で入手できるファイルに旧作の登場人物の名前が入っているなど、ファンサービスも忘れていない)。
しかも敵サイドの人物の作り込みが素晴らしく、ベーカー一家の3人、ジャック、マーガレット、ルーカスは個性豊かで印象的であり、それぞれ別の場所で、全く違った方法でイーサンを追い詰めてくる強敵である(「悪魔のいけにえ」との酷似を指摘されているが)。ゲーム的にもストーリー的にもしっかり使い分けができていると言っていい。そして雑魚敵として出現するモールデッドも、種類こそは少ないものの、モーションや攻撃方法が豊富でしっかり作り込まれている。
△正面左からルーカス、ジャック、マーガレット。全員にしっかり役割がある重要な悪役である
問題は主人公サイドに属するキャラクターの描写の薄さであり、特に主人公イーサンの描写が少ない。VR版があるFPS視点のゲームということで、あえてイーサンの描写を抑え、プレイヤーがイーサンに自分を重ねられるようにした意図があるのかもしれない。しかし歴代のバイオ主人公より圧倒的に運動性能が悪く、ほとんど何の情報もないイーサンに感情移入することは困難である。またイーサンの数少ない特徴として口がやたらと悪いという点が挙げられるが、日本語字幕や日本語吹き替えではそれが極端に薄れてしまっている。*1
イーサンの詳細と、ミアとゾイに関して
口が悪い以外の描写が薄いイーサンであるが、前述のED分岐にてミアを助けた場合、脱出の最中に"Who the hell else was I going to choose?"「他に誰を選ぶっていうんだ?」と言う。いくら妻との比較とはいえ、脱出や治療を手助けしてくれた重要な協力者に対してこの発言をするのは行き過ぎである。イーサンの数少ない描写からは、口だけでなく性格も悪いという散々な人物像しか浮かばない。
ミアに関しては前述のED分岐にて書いたように、事情を勘案しても不快感を覚える行動が多い上に、今回のバイオハザード(生物災害)の一因にもなっている。ゾイも血清の作成やイーサンの脱出を助けてくれるものの、(ゲームの事情があるとはいえ)あまり積極的に助けてくれるわけではなく、イーサンに危険なお使いを頼む場面が多い。描写も少なく、ゾイがイーサンの左手を治療した後に、危険なベーカー一家にイーサンを引き渡している理由も結局よく分からない。
演出
「すべては恐怖のために」という今作のキャッチコピーに忠実にホラー演出を散りばめている。単純なビックリ系やグロテスク系だけでなく、常に一人で行動する孤独感、得体の知れない物体が蔓延る場所を歩く生理的な不快感、扉を開けた先に何が待ち受けているか分からない不安感、明らかに敵わない強靭な敵に追われ続ける焦燥感、倒錯した家族愛を強要するベーカー一家に対する嫌悪感など、多彩な方法で恐怖を演出しており、サバイバルホラーというジャンルのゲームとして素晴らしいと思う。
また、演出面に力を入れている一方で、それを無理矢理見せようとしていない点も好感が持てる。ゲーム中の恐怖演出も、プレイヤーの操作や行動次第で避けようと思えば避けられるものが多く、演出を見せるためにいきなり操作を制限される不快なイベントはほとんど存在しない。*2
さらにマップ同士がシームレスに繋がっており、従来のバイオで見られたような読み込みを要する扉が存在しない(一部通路やエレベーターは読み込み時間を稼ぐ役割を持っていると思われる)。
そしてFPSのゲームでは珍しく、プレイヤーの影をしっかり描写しているという点は個人的に良いと思った。自分がイーサンやミアとして行動していることを影を通してプレイヤーに再認識させる手法はユニークで面白い。
△▽だーれだ?
他の好きな点
このゲームはリベレーションズに近い作りになっており、一本道に近いマップを進んでいくのではなく、比較的小さくまとまったマップをぐるぐる探索するように進んでいく。ゲーム中盤で手に入れた鍵が、序盤で通り過ぎた扉に対して使えるといった要素や、序盤で通り過ぎた場所の様子が中盤では変わっていたり、敵が再配置される演出もある。私はこのような演出が好きなので嬉しい。
また今作では最初に入った建物にストーリーの終盤にもう一度入り、伏線を回収しながらラスボスと戦い、最後に瀕死のイーサンが救出されるという演出があるが、これも個人的に好物である。ほとんどのバイオは一本道に近いマップを進み、敵の本拠地に到達し、崩壊する基地や研究所から自力で脱出して終わるという演出だったので、意表を突かれてしまった。
さらに、ヒロインが仕事先から主人公に送ったビデオレターから物語が始まるという点は、私の好きな作品であるDead Spaceを思い出させる演出で、気に入っている。
グラフィック
残念ながら今作のグラフィックはあまり良くない。ほとんどのムービーシーンがゲームプレイとシームレスに繋がる関係で、従来のバイオでよく見られたプリレンダリングムービー (事前にひとまとまりの映像として書き出した動画。大抵スキップ可能) ではなく、リアルタイムレンダリングムービー (キャラクターがその場で決まった動きをして見せている動画。プリレンダの物より映像は粗くなる。大抵スキップ不能) を使ったシーンが多く、粗い印象が残るからだと思われる。また一部の開けた場所でも背景の細かい所を描写していなかったり、それほど手が込んでいるとは言えない。
△ゲーム中で見られる森。右手前は入れる場所、左奥は行けない場所である
そして、今作には「通常版」と「グロテスクVer.」が存在しているが、グロテスクVer.ですら北米版と比較すると描写が一部規制されている。参考リンクを載せる(閲覧注意)。
私は通常版を購入し、グロテスクVer.や北米版は動画で視聴したが、通常版に過激描写を追加したのがグロテスクVer.というわけではなく、グロテスクVer.を雑に規制したのが通常版という印象を受けた。
具体的に
例えば冒頭にイーサンが左手を切り落とされるシーンがあるが、通常版では左手は無事である(少し左腕を抑える描写があるだけで、回復中などは平常時と同じく左手が動く)。しかし左手を使えない設定はそのままで、その後のリロードにはやたらと時間がかかるため、プレイヤーを混乱させる原因になっている(実際私は混乱した)。さらにイーサンの四肢復活描写が通常版では無いせいで、イーサンが知らぬ間に特異菌に感染しており、常人を超えた再生能力を体得していたという重要な示唆が通常版では省かれている。
また、同じく冒頭でジャックがルーカスの左腕を切り落とすシーンがあるが、通常版では単に切るだけで、ルーカスの左腕は普通にくっついている。しかし、元々左腕を切断した状態でシーンを作成して後で左腕をくっつけただけのようで、その後のシーン(閲覧注意)でルーカスの左手は不自然なほどに微動だにしない。手がくっついている通常版の方が、手が抜かれているとはこれいかに。
そして、敵のグラフィックがドアや壁を貫通するような、萎えるバグの発生頻度も高い。バイオ6ではどんなに込み入った場所で特殊演出が入る格闘攻撃をしようとも、敵や自分、あるいはカメラがオブジェクトにめり込んだり、真空判定が出ることはほぼなく、この点に関しては非常に高い評価をしていただけに残念。
サウンド
今作では、おそらく意図的にBGMを無音、もしくは環境音に近いBGMにしている箇所が多く、残念ながら印象に残ったBGMは少ない。発売前に話題になったGo Tell Aunt Rhodyは変わらず人気がある。またSEはなかなか凝った物も多く気に入っている。
個人的に好みのBGMを挙げると
旧館カラスの扉前でのマーガレット戦は、マーガレットを倒した瞬間にBGMが変化するが、繋ぎが綺麗でかなり好み。また実験場ワイヤートラップ箇所の怪しげなBGM、廃船地下2階の緊迫した雰囲気のBGMも好み。
ゲームシステム
操作性・UI
残念ながらバイオハザードシリーズは「操作性の悪さ」「UIの不便さ」が常について回る作品である(例外はほぼ完全にシューティングゲームのアンブレラクロニクルズやダークサイドクロニクルズくらい)。開発者が意図的にそうしているのか、直すことができないのかは分からないが、シリーズを通してこの傾向がある。そしてバイオ7もFPSゲームにしてはかなり操作性が悪く、UIもやや不親切である。
詳しく書くと(ネタバレ事項なし)
- ドアの開閉を思い通りに行うのにかなりコツがいる。このゲームではドアの扱いが極めて重要である(敵のほとんどがドアを開けることができない)にも関わらず、ドアを開けて部屋に入り、すぐにドアを閉じるという簡単な動作すら思い通りに行うのはかなり難しい。特に半開きのドアは非常にタチが悪く、走り抜けながら開けようとするとドアが閉じて閉め出されやすい。ドアの開閉を無理にワンボタンで行うようにしない方が良かったのではないだろうか。
- アイテムが取りにくく、取り逃しを誘発する仕様が多い。アイテムの存在を示すカーソルが、アイテム取得可能な距離よりも僅かに遠くから表示されるため、カーソルを目印にボタンを押すとアイテムを取得できないことが頻発する。そもそもアイテム取得距離が短すぎて足元のアイテムを拾うのに苦労する。その上アイテム取得時のSEが小さいため、取り逃しても気付かないことが多い。
- 操作キャラクターの走行速度が遅い。特に室内では顕著で、生きるか死ぬかの危機的状況でも、これから42.195kmを走るかのような速度でしか走れない。難易度調整や読み込みの事情もあると思われるが…。
- 操作キャラクターの後方への移動速度が遅い。敵の攻撃を回避しにくくするための仕様と思われるが、後方への移動になった途端に鉄骨渡りをしているかのような移動速度になるのはかなり奇妙である。ちなみに後方へは走れない。
- ハシゴの登り速度が遅い。まるでロッククライミングをしているかのような速度でハシゴを登る。しかもボス部屋にハシゴが存在することが多い。
- 足元を見ることができないのに、意図しない落下が起きやすい地形がある。多くのFPSゲームのシングルキャンペーンでは落下事故があまり起こらないように設計されているが、今作ではよりによってボス部屋で落下事故を誘発する地形を作っている。
- 回復以外の先行入力ができない。この仕様のせいで最速でリロードや射撃を行おうとして硬直時間中に入力してしまい、結局入力を受け付けず隙を晒す事態が発生しやすい。
- エレベーターの扉が「完全に」開くまで出入りできない。通常のドアは開けながらでも出入りできるが、エレベーターでは3, 4人くらいが同時に出入りできそうなくらいほぼ完全に扉が開いていても見えない壁が出入りを阻む。これは不自然でイライラする仕様であるし、今作のエレベーターはどれも戦闘区域にあるため、この仕様に邪魔されてダメージを受ける恐れがある。*3
- 残弾数の表示がすぐに消える、小さい、画面端に寄り過ぎ、残弾数ゼロの警告表示がない。単純に不便なだけのUIであり、この仕様のせいで無駄に残弾確認を強いられる。HUD(ヘッドアップディスプレイ。視界に重ねてゲームの情報を表示したもの)の削減を狙ったのかもしれないが、個人的には不便さへの苛立ちの方が勝る。
- 体力表示が見辛く不便。このゲームでは、操作キャラクターが左腕につけたアップルウォッチのような腕時計「コデックス」に表示された心電図で残り体力を把握する。HUD削減を狙ったのかもしれないが、コデックスを見るには基本的に立ち止まらなければならない上に、ストーリーの関係でコデックスを持っていない場面がある(この場合画面の血飛沫や移動速度からアバウトに体力を把握するしかない)。残弾数表示と同じく、単純に不便なだけのUIになってしまっている。
- 不要な鍵、不要な武器を捨てられない。捨てられるのは消耗品だけで、過去のバイオでは「この鍵はもう必要ないようだ。捨てますか?」のコマンドが出たり、鍵がアイテムスロットを埋めないという仕様があったが、今作では明らかに不要な鍵や武器でアイテムスロットが圧迫されるという非常に不便な仕様になっている。
- 調査した場所を再調査する誤操作を誘発している。アイテム取得ボタンと調査ボタンが統一されているため、例えば缶の蓋を開けてアイテムを取り出した直後に再び缶を取り上げてしまうような誤操作が出やすい。また開けた棚や引き出しを再び閉めることができる謎仕様もある。
- 回復やドーピングをする度にチラチラ左手を凝視して絶大な隙を晒す(実はガードで動作をキャンセルできるがゲーム内で説明はない)。
- 手斧による攻撃が障害物に邪魔されて中断される。
- 片手でリロードすると動作を中断できない。
戦闘
バイオはクリーチャーとの戦闘が醍醐味の作品である。今作ではモールデッドと呼ばれる異形の生物と、ベーカー一家との戦闘が楽しめる。
今作の戦闘で非常に良いと思っている点が「敵との戦闘や、弱点部位への攻撃に自然と誘導される」という所だ。部屋の扉がロックされて敵が投入されるありきたりな強制戦闘イベントはほとんどなく、行く先に敵が出て来るから倒す、弾薬がないからスルーする、態勢を整えるために一旦退くなどの判断をプレイヤーが行うことができ、自由度が高い。また、敵を倒してもアイテムが出現することはない。ゲームに慣れたら戦闘は稼ぎ行為となり、化け物と戦えば戦うほど黒字になることもない。その分敵との戦闘はプレイヤーの自発的な行動となり、戦闘を強要されている感覚が少ない。
そして、4以降のバイオは敵の弱点部位を的確に狙い撃つことで様々なアドバンテージを得られたが、これは今作でも存在する仕様である。しかしバイオ4, 5, 6のように、弱点部位を撃つと操作キャラクターが敵にアクロバティックな超人体術を仕掛けて吹っ飛ばす…ということは一切なく、単純に大きなダメージを与えられるだけである。*4 適当に撃っても全然倒せないので、大きなダメージを与えるためにしっかり弱点を狙う。シンプルで自然な誘導である。
また、今作では弾薬や回復を手持ちの材料を使ってクラフトすることができる。単独で入手できるアイテムや弾薬では足りないことがほとんどで、それらを組合せて自分に必要な物資をクラフトすることで余裕が生まれるバランスとなっている。何を優先して何をクラフトするかという選択が、プレイヤーに大きな自由度を与え、ゲームの進行に幅を持たせている。
△数多のイーサンを死亡させた憎き四つ脚モールデッド
しかし戦闘面でも問題点がないわけではなく、たとえば四つ脚モールデッドが強すぎるという点が挙げられる。雑魚敵が強いこと自体は問題ない(特に今作のように雑魚敵の種類が少ない作品では、どの雑魚敵もある程度強い必要がある)が、四つ脚モールデッドだけ他の雑魚敵と比べて明らかに、異常なまでに強い。*5
四つ脚モールデッドの特徴(ネタバレ事項なし)
- 四つ脚で地面に這いつくばるため姿勢が低く弾を当てにくい
- 地面だけでなく壁にも張り付いて回避行動を取る
- 移動速度と攻撃速度が他の雑魚敵より圧倒的に速い
- 操作キャラが引っかかるためスルーしにくい
- 反応困難な速度で遠距離から飛びつき攻撃をしてくる
- 一撃の威力が高い上にコンボになりやすい
- ゲーム内では「体力が低い」と解説されているが至近距離のショットガンにも余裕で耐える。頭部の耐久力が低いだけ
- 一度接近されると、操作キャラクターは自分の足元を見ることができないので弱点の頭部を狙うことができず、そのままハメ殺される
- 不意打ち出現、曲がり角や背後からの出現、2体以上の同時出現など厄介な登場パターンが多い
特定の行動中の敵を倒すことができないのも問題点である。雑魚敵がダクトから落ちてきた直後や、ボス敵の特定の移動パターン中などは、敵の体力を1までしか削れない仕様がある。プレイヤーから見て平常時と全く見分けがつかない状態なのに、敵に妙な耐久能力が追加されているのは少々困った仕様である。
戦闘面における最も大きな問題点として、ゲームの読み込みを強く意識させる仕様があることが挙げられる。特定の部屋や場所に入ると急に敵が消失し、一定のラインを越えてしばらくすると敵が出現する。これを利用して敵の消失と再読込を連発することで、ゲームの仕様の穴を突いた、実に見栄えの悪い攻略が全編を通して可能である。しかも今作は敵の出現SEや消失SEが大きく、壁の向こう側や部屋の外で起こった敵の出現・消失にも簡単に気付けるせいで、別に意地悪でないプレイヤーでも読み込みラインを意識してプレイすることになる。せっかくマップがシームレスに繋がっているだけに勿体無い。
謎解き
バイオというと、一体誰が作ったのか分からない壮大な回りくどい仕掛けを想像する人もいるが、今作でもそれは健在である。しかしやり過ぎていない程度で、これくらいなら工事屋に無理を言えば作ってくれそうと思わせる程度の範囲に収まっていて、個人的に気に入っている。
また、メニューやマップを開くと現在の目標が表示され、特定のファイルや場所を調べるとちゃんと目標が更新される所は親切。勿論プレイヤーに探索をさせる余地はしっかり残している。
お気に入りの謎解き
後半の廃船編の謎解きがかなり好みである。停電して中途半端な所で止まったエレベーターを経由して探索するというアイデアは面白いと思ったし、廃船に入ってすぐ使ったヒューズの存在を忘れて探し回ったのも良い思い出となっている。
しかしエレベーター内にある整備士のメモは一体どの時点で貼られたのか不可解(ミア過去編でエレベーターが停止した直後にタンカーが爆発している。整備士は爆発後のタンカーでわざわざ危険なエレベーターに入って呑気な内容のメモを残したのだろうか?)で、未だに納得できていない。また3年も放置された廃船で一部電源がまだ生きていることに関する説明も欲しかったと思う。
難易度
今作ではEasy, Normal, Madhouseの3つの難易度がある。たった3種類しか難易度がないのは最近のゲームとしては珍しいが、これには理由がある。なんと最高難易度のMadhouseでゲーム内容が変わる。アイテムの配置や敵の体力だけでなく、キーアイテムの場所や数、可能な攻略ルート、敵AIや移動速度、出現位置、攻撃モーション速度、さらには一部武器の弾薬消耗速度まで変化している大変手の込んだ高難易度モードである。*6 Normal以下のバイオ7とMadhouseのバイオ7は別ゲーであると言っても過言ではない。
しかしゲームプレイ1周を通して見たときの難易度のバランスに関しては、序盤と中盤に難しい箇所が偏っており、中盤以降難易度が先細り気味である。終盤はよほど弾薬が枯渇していない限り問題なく突破できるため、消化試合の印象が強い。
やり込み
バイオハザード7最大の欠点と言えるのがボリュームの不足である。1周がかなり短く、慣れれば最高難易度で縛りプレイをしても2時間程度でクリアできてしまう(ほとんどのムービーを飛ばせないので実質プレイ時間はもっと短い)。ゆっくり探索しながらプレイしても大体10時間ほど。いくら難易度によって演出が変わるとはいえ、ボリューム不足感は否めない。
制作者側もそれを分かっていたのか
1周が非常に短いため、バイオ7は実質周回前提のゲームとなっている。しかし周回前提の割には序盤の拘束時間(操作必須かつ歩く以外何もできない時間)が10分以上ある上に、PC版でもセーブ記録を14個しか作れないという不便な仕様が目立つ。
各種DLCでボリュームを補強しているが、なぜかPC版やXbox版はDLC配信がPS4版より3週間以上遅いという謎の冷遇を受けている。また、これらのDLCは有料である。そしてこれまでのバイオシリーズでお馴染みだったマーセナリーズのようなモードは存在しない。
だが、バイオ特有の縛りプレイはちゃんとできる作りになっている。お馴染みナイフ縛りからアイテムボックス縛り、回復縛り、タイムアタックなどなど多様な縛りプレイが可能だ。そして今作ではどの武器も個性が強く活躍するポテンシャルがあり、武器に着目して考察するのも面白い。
総評
バイオハザード7は、各所で指摘されている(ネタバレ注意)ようにボリューム不足は否めない作品である。DLCで補強をしているものの、慣れれば最高難易度でも1周2時間程度で終わってしまう。また、バイオシリーズ伝統の操作性の悪さとUIの不便さも引き継いでおり、ゲームロードを強く意識させる仕様も存在する。
しかし、多彩なホラー演出でプレイヤーを恐怖させることには間違いなく成功しており、「すべては恐怖のために」というキャッチコピーに恥じない仕上がりとなっている。個性豊かで魅力的な新規キャラクターが揃っており、巧みな難易度調整、非常に手の込んだ高難易度モードの作成、プレイヤーの自然な誘導もこなしている。バイオ4然り、リベレーションズ然り、アンブレラ・クロニクルズ然り、バイオはモデルチェンジ直後に良作が出るという持論を私は持っているが、バイオ7も例外ではなく、大幅なモデルチェンジ直後の作品とは思えないほど丁寧に作り込まれており完成度は高い。バイオハザードシリーズの新たな可能性を示した重要な一作であると言えるだろう。
【追記】次回作バイオハザード ヴィレッジのレビューはこちら。
*1:ジャックの"Groovy"「イカすだろ?」という発言に対し"That's not groovy"と言い返すシーンの訳が「マジかよ」になっていたり、ルーカスに対し"Kiss my ass"と言い放つシーンの訳が「イカレ野郎め」になっていたり
*2:前作バイオ6は強引に演出を見せようとした結果、プレイヤーはゲーム中に理不尽な硬直やカメラ移動、QTEを強要され、非常にストレスの溜まるゲームになってしまったことを考えると、劇的な改善をしていると言える
*3:エレベーターが戦闘区域にあるのは、Dead Space 2やバイオハザード5のように、エレベーターの呼び出し時間を利用してプレイヤーを追い詰める演出を狙ったのかもしれないが、見えない壁に邪魔されるというクソ仕様に苛つかせる効果しか生んでいない
*4:このダメージボーナスがかなり大きく、例えばゲーム中でトップクラスの威力を誇るマグナムで雑魚敵の人型モールデッドを撃っても、ヘッドショットなら一撃で倒すことができるが、胴撃ちでは数発撃たなければ倒すことができない
*5:四つ脚モールデッドはDead Space 2のLeaperに非常によく似ている。Leaperも低い姿勢で床や壁に張り付き、素早く飛びかかってくる火力の高い強敵である。Dead Spaceの主人公は格闘攻撃が強く、敵のスピードを大幅に鈍化させるStasisを使うことができるが、それでもLeaperはあまりに強すぎたためか、次作のDead Space 3のLeaperは大きく弱体化した
*6:参考リンク。閲覧注意。おそらく開発者が「どうすれば難しくなるのか」を理解した上で丁寧に調整しており、出現位置を知っていれば簡単にスルーできるような敵の配置変えをしている(ただし、このせいでMadhouseでは一部演出が省略されてしまっている)。その一方で、序盤の一部の場所ではあえて敵の数をNormal以下の難易度より減らすことで、ダメージ覚悟のゴリ押し前提にしない工夫の跡も見られる