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【The Last of Us Part II】レビュー: プレイヤーに絶え間なく葛藤を強いる、オススメできない名作【ネタバレ対策済】

この記事では、2020年6月19日に発売されたThe Last of Us Part II(ラストオブアス2、ラスアス2)のレビューを書く。ネタバレ事項を含む箇所は記事の後半にあり、事前に長い空白を用意している(動画はキャラバレを含むので注意)。また、グロテスクな画像は載せていないが、グロテスクなシーンのある動画リンクには閲覧注意と併記している。

結論から言うと、ラスアス2は名作であり、個人的に高く評価している。ただしストーリーに関する難点もあり、万人向けの傑作である前作ラスアス1と比べると、本当に人を選ぶ作品になってしまったと思う。一言で言えば「オススメできない名作」だ。

 

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The Last of Us Part II 実績全解除スクリーンショット

 

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アップデートで追加された難易度GROUNDクリア実績。GROUNDでは聞き耳や一部HUDが使えず、リアルさ重視の高難易度を楽しめる。バグが多いのが難点

 

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アップデートで追加された、死亡時全データ削除設定を入れてクリアしたときの実績。もう何周もプレイしているので当然一発クリアだろうと思い舐め腐りつつ挑戦したが、このゲームは日常パートが非常に長く、難易度が関係ない即死ポイントも多く精神的に苦しかった。結局4回ほど死亡した

 

 

評価点

ストーリー関連

  • 主人公エリーの成長を様々な角度から描いている
  • プレイヤーを常に安心させず、緊張を与え続ける展開になっている
  • 様々なミスリードを駆使してプレイヤーにサプライズを与えている
  • 過酷な世界で一縷の希望にすがるテーマが前作から一貫している
  • ストーリー前半の複数の伏線を後半で綺麗に回収している
  • ストーリー後半(終盤以外)の内容は比較的分かりやすい
  • 主人公の転換点となった出来事をプレイヤー自らの操作で実行させてくれる

描写・演出関連

  • グラフィックが非常に美しい
  • 主人公の挙動、敵の動作、動物の仕草、ロープや流体や雪の動きなどが極めて繊細に描写されている
  • 格闘モーションが大変豊富な上に迫力満点
  • ストーリーを進める順番やプレイヤーの行動によってゲーム内の会話が細かく変わる
  • 前作ファンやノーティードッグファンへのサービスがさり気なく入っている
  • ゲーム内実績に無い特殊演出や会話などがこっそり用意されている
  • プレイヤーの誘導やミスリードが上手い
  • 敵1人1人に名前が与えられており、戦闘中に敵同士が名指しでコミュニケーションを取る
  • 新種感染者の印象が強く、存在感が大きい
  • 感染者の挙動が前作より自然になった
  • 各種感染者の行動パターンが前作より差別化された

戦闘関連

  • 武器や行動、敵の種類が前作より増えて戦闘の幅が広がった
  • マップや敵の巡回経路が複雑で、様々な攻略パターンを取れる
  • 巡回時、警戒時、戦闘時の敵の会話や挙動が比較的自然
  • 強い武器ほど後半に解禁され、入手できる資源や弾薬もバラついているため、様々な武器を使うよう自然と誘導される
  • 伏せると照準精度が上がるのがリアル
  • ステルスキルしてくださいと言わんばかりの孤立した敵が非常に少ない
  • 「ここに陣取れば勝てる」ような強ポジションが少ない
  • 基本的にどの種類の敵も前作より鋭敏で強く、大人数で攻めてくる

ロード関連

  • ムービースキップをしないなら、ほぼ全てのパートをシームレスに遊べる

その他モード関連

  • ゲーム中の主要な戦闘箇所だけを遊べるバトルモードがある
  • ゲームシーンを撮影できるフォトモードの機能が豊富
  • アクセシビリティ設定が大変充実しており、障害者以外も役立てられる
  • ノーデス縛りモードやリアルさ重視の高難易度モードGROUNDがある

問題点

ストーリー関連

  • 主人公エリーの心情描写が不足しているせいでエンディングの解釈が定まらず、丸投げ感が強い
  • 前作ファンのメンタルを徹底的に破壊してくる
  • カタルシスとは終始無縁で、ストーリーが鬱積と葛藤に満ちている
  • 日常パートが長く、周回プレイが苦しい(ロードを除く全プレイ時間の2割から3割程度を占める)
  • 「主人公サイドが単に無警戒すぎた」で片付く場面が複数ある
  • スケール感が前作に比べて非常に小さい
  • 前作のストーリーや敵の性質を把握していることが大前提になっている
  • 敵集団が排他的になった理由がはっきりしない
  • 終盤の敵の印象が薄い

描写・演出関連

  • 日本版は主にグロ関連の描写が北米版と異なる
  • 敵モデルが使い回されている
  • ハンドガンを持っているのに遠くのライフルを取ろうとしたせいで反撃を失敗したり、刀やショットガンを持っているのに壊れかけの角材で不意打ちしたせいで返り討ちにあうなど、主人公の行動がおかしな点がある
  • 奥側に開くドアの手前にある物をわざわざどかす演出がある

戦闘関連

  • 味方NPCがステルス時に非常に邪魔。高難易度では戦闘時でも邪魔
  • 敵の銃弾が絶対に尽きない。しかも高難易度では倒しても銃弾を滅多に落とさない
  • どの敵も最終的に必ず接近戦を挑んでくる
  • 若干ステルス偏重気味で、無音武器や伏せ移動の存在感が大きい
  • ストーリー上必須の格闘戦がやや単調
  • 明らかに射線が通っていないのに銃撃を受けることがある
  • 近接武器を所持していると素手状態の近接格闘ができない
  • 敵が命乞いを始めると6秒程度攻撃不能になり、即座にトドメを刺せない
  • 位置バレしても、少し離れた場所ならそのまま隠れているだけで敵がこちらを見失う
  • 草むらなどの視認しにくい所から狙撃すると、敵が狙撃に気付いてもそのまま体を晒し続ける
  • 敵の死体を移動させる操作や、ドアを閉める操作が無い
  • 乗り越えモーションや飛び降りモーション中の敵に格闘攻撃がスカる
  • ビンやレンガなどの投擲物を敵が視認できない
  • 一部の格闘攻撃が大きな音を立てているのに無音扱い(逆パターンもあり)
  • 回避伏せなど、小走りより明らかに大きな音を立てている移動が無音扱い
  • 敵をつかめる条件が分かりにくく、アイコン表示無しではつかみ可能か判別困難
  • ランナーという敵をクリッカーという盲目の敵と同士討ちさせることができるが、なぜ普段から同士討ちしないのか不明
  • 敵兵がほぼ同じ服装をしているのに、なぜか変装する発想が無い
  • 音波で主人公の位置を探る敵が、なぜか窓ガラス越しでもこちらを探知する
  • なぜか動いていない敵も聞き耳で位置が分かってしまう
  • なぜかどんな火器よりも弓の方が命中精度が高い
  • なぜか息止めによってハンドガンや弓の照準も安定する
  • なぜかサブマシンガンの命中精度がハンドガンより低い
  • なぜかサプリメント服用により弾薬を作れるようになる
  • なぜか敵の範囲攻撃で敵が同士討ちしない
  • なぜか特定の敵に対して遠方からの銃撃がスカる

操作関連

  • 同じボタンに多くの操作が割り当てられていて煩雑
  • 操作の優先度の関係で、特定の状況で行えなくなる操作がある
  • スキップできるムービーが分かりにくい
  • 崖際のおっとっと状態からジャンプすると一番ジャンプ距離を稼げるが、不自然な上に操作が無駄にシビア

ロード関連

  • SSD換装したPS4 Proでも読み込み時間が長い(実プレイ時間の15%程度)
  • 地形の読み込みが間に合わないせいで地面から落下して死亡することがある
  • ゲームクリア済であってもタイトルメニューの内容がストーリーの進行状況に合わせられる
  • リスタートにより敵が別の位置に再配置される

バグ関連

  • モーションバグ、床抜けバグ、壁抜けバグ、ストーリー進行バグが存在する
  • バトルモードがバグだらけで、本編の進行状況を巻き戻す重大なものまである
  • 稀に前触れなくゲームが強制終了する
  • 鍵使用直後にリスタートすると鍵が消費されずに残る
  • 巡回中の敵が酩酊したようなフラフラ歩きになることがある
  • 巡回するはずの敵がリスタート時に棒立ちになることがある
  • 残り耐久値1の近接武器で、命乞い状態の敵に特定の急所攻撃をするとモーションがバグる
  • 難易度GROUNDのバグが多い(特定のシーンで敵がワープするなど)

 

詳細レビュー

※ストーリーの詳細レビューはネタバレを含むので最後に記載している。

 

描写・演出

ラストオブアスというと美麗なグラフィックで名高いが、今作のグラフィックも非常に美しい。特に今作は背景だけではなく、主人公や動物の一挙一動、複雑な動きをする物体の物理演算、銃器のメカニックまで大変凝っている。百聞は一見に如かず、動画で確認してほしい(ただし一部閲覧注意)。

7:30以降、非常にグロテスクな表現多数。閲覧注意

 

5:50-6:30, 15:50-16:20に過激な表現あり。閲覧注意

 

発売前デモでも使用された武器改造シーン。自分は6:11からの弓の改造シーンが大のお気に入り

 

前作から大好きだった凝りに凝った格闘モーション。モーションが豊富すぎて、合計20分以上あるこれらの動画を足しても網羅しきれていない閲覧注意

これだけ格闘モーションが豊富な理由として、

  • 操作キャラは誰か
  • 敵は通常の人間か、大柄な人間か、通常の感染者か、大柄な感染者か
  • 敵が壁際にいるか、崖上にいるか、低いオブジェクトの近くにいるか、寝姿勢か、それ以外か
  • 主人公は地上にいるか、段差の上にいるか、落下中か
  • 主人公はどの近接武器を持っているか
  • 敵はどの近接武器、または特定の火器を持っているか
  • 敵は戦闘状態か、非戦闘状態か、ひるみ状態か、命乞い状態か
  • 敵と正対しているか、背後を取っているか

これら1つ1つの条件を個別に判定し、そのうち多くのパターンに対して専用の格闘モーションが割り当てられていることが挙げられる。1つ1つモーションアクターが演技してCGをつけてカメラを調整して…想像したくないほどの途方も無い労力がかかっている。さらに、味方NPCや敵も専用格闘モーションを持っていることを付け加えておこう。

 

各描写に非常にこだわった今作であるが問題点もあり、CERO Zゲームではもはや恒例だが、日本版限定の表現規制が入っている。ただし、幸い規制によってストーリーが分かりにくくなることは無い。部位欠損や内臓の描写がなかったり、性的なシーンが直接的に描かれなかったりしても、ゲームのメッセージが大きく損なわれることは無いと自分は思っている。

個人的には、表現規制よりも敵モデルの使い回しが気になる。敵1人1人に名前が与えられているだけに「お前は…だいぶ前に死んだはずのトッド!?」と驚くような事態がよく発生する。かといって全キャラ別モデルにするのも無理だろうが…。

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全て別々の場所で撮影された別人

 

戦闘

ラストオブアスの戦闘システムは今作でも健在で、行動、武器、敵の種類が増えて大幅にパワーアップしている。弾薬が希少で火器の性能があまり突出していないバランス、拾った素材を利用した即席武器工作、敵を肉の盾にする人質攻撃、ビンやレンガによる誘導など、前作にあった要素はそのまま引き継がれている。

特に、前作から最も進化したのは人間の敵のAIだろう。

  • 巡回中時々振り向いたり横を見たりする
  • 怪しい所を二人一組で調べにいく
  • 会話に反応しない仲間の安否を確認しにいく
  • 仲間の死体を見つけたら警戒状態になり、付近を徹底的に捜索する
  • 不意の攻撃を受けるとすぐに散開して隠れる
  • 投擲物や矢が飛んできた方向を推測して報告する
  • 主人公の正面をなるべく避けて回り込む
  • 草むらで伏せて主人公を待ち伏せる
  • 主人公が隠れていそうな遮蔽物から距離を取って接近する
  • 近接戦闘時に銃口を向けられると回避行動を取る
  • 主人公の格闘中、主人公と敵の距離が少しでも開くとすぐに他の敵が銃撃する
  • 主人公の位置や状況を頻繁に報告する
  • 仲間に戦術の指示を出す
  • 主人公が弾切れの銃を空撃ちするとそのことを大声で報告しながら突っ込んでくる
  • 残り1人で劣勢になると降伏する

これほど人間らしく厄介な敵を作り上げたTPSのゲームも珍しいと思う。また、前作ではDLC限定だった三つ巴のシーンも多数用意されている。敵勢力同士を交戦させて密かに離脱するも良し、敵の一方を全滅させて残りを自力で始末するも良し、戦略の幅が広がった。

マップや敵の巡回経路が非常に複雑になったことも強調しておきたい。ステルス1つを取っても、ルートや倒す敵、使う武器など様々な選択肢がある。ステルスせずに一目散にダッシュしたり、爆発物で奇襲して大打撃を与える方が楽な戦闘も存在する。一度クリアした戦闘でも、次は別の方法を試したくなる飽きさせないデザインとなっている。

 

 

このように、戦闘システムは前作から大幅にパワーアップしてとても楽しくなっているが、ここまでくると逆に「まだできないこと」「不自然なこと」が気になってしまう。たとえば敵の死体を移動させる操作が無い(匍匐状態で押して無理矢理移動させるしかない)し、敵AIが進化したとはいえ最終的に必ず接近戦を挑んでくるせいで、地形限定ではあるがキャンプも有効である。

さらに、これは前作でも顕著だったが、ややステルス偏重のバランス。ステルスキルは資源の消費が少なく、およそ定形パターンで実行可能、完遂すればノーダメージと良いこと尽くしだ。ゲームに慣れたプレイヤーなら誰でもステルス関連の強化を真っ先に行うし、草むらで芋虫になり、最優先でサイレンサーを工作し、ショットガンやライフルより弓を使い、弾薬よりもビンやレンガを追い求める。せっかく多数のモーションが用意されている格闘攻撃も、大きな音を立てるせいで出番が少ないのは悲しい。

また、ステルス偏重のバランスである故に、味方NPCがステルス時に非常に邪魔になるという欠点が無視できない。ひどいときは主人公をカバーポジションから押し出してくるし、狭い通路に居座って移動を妨害してくる。

最後に、ストーリー上必須の格闘戦がやや単調であることを付け加える。できることは攻撃と回避の2択しかなく、回避がほぼノーリスクなので、回避を擦りまくって敵が攻撃をスカったら反撃を入れ込む、という実に見栄えの悪い戦法で簡単にノーダメージクリアできる。ラストオブアスは格ゲーではないが、ストーリーで何度も格闘戦を要求してくる以上、もう一捻りほしかった所だ。

 

操作

今作の少し残念な点。同じボタンに多くの操作が割り当てられているため、大変煩雑である。それだけでなく、同じボタンで2種類の操作ができる状況では、片方の操作が優先されるため誤操作がよく起きる。たとえば

  • シャッターを開けようとしたら(△長押し)、近くのアイテムを拾ってしまった(△)
  • 窓を割ろうとしたら(□)、付近の敵に格闘攻撃をしてしまった(□)
  • 武器を切り替えようとしたら(□長押し)、格闘攻撃をしてしまった(□)
  • ロープにぶら下がろうとしたら(×)、ジャンプして飛び降りてしまった(×)
  • サイレンサーを取り付けようとしたら(△長押し)、近接武器の切り替えをしてしまった(△長押し)

こんなことがゲームに慣れたプレイヤーであっても発生する。たとえば以下の動画には、タイムアタック世界記録保持者の怒りの声が記録されている(指定済の再生位置周辺以外閲覧注意)。

 

ロード

今作は他の多くのゲームと同じく、ムービー中にロードを行う形式であり、ムービースキップをしないなら驚くほどシームレスに遊ぶことができる。

しかし、ひとたびムービースキップをすると長いロードに苦しむことになる。これはSSD換装したPS4 Proでも同様で、ムービー箇所ごとに30秒から1分半程度はロードを挟む。周回プレイではかなり苦しいレベルだ。また、マップのロードが間に合わないせいで地面から落下して死ぬこともある。

ロードに関する不便な仕様もある。ゲームをクリア済みでも、ゲームを新しくスタートするとタイトルメニューがストーリーの進行状況に合わせて巻き戻されてしまう。たとえばゲームクリア後に新しくゲームを始めてチャプター1-1に到達すると、チャプターセレクトでチャプター1-1しか選べない状態になる。これを解消するには、本編を目的のチャプターまで進めるか、それ以降まで進めたセーブデータをロードするしかない。

 

その他モード

今作には本編中の戦闘箇所だけ遊べる便利なバトルモードが入っており(バグが多いが)、充実したフォトモードもある。障害者向けのアクセシビリティ設定が非常に豊富な点も評価したい。視覚や聴覚に問題がなくとも、戦闘補助設定はアクションゲームが苦手な人も役立てられるし、ハイライト設定は調べプレイの助けになる。

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フォトモードで撮影。ロゴも焼き付け可能

 

ストーリー

今作で最も賛否が分かれる所。ラスアス2のレビュー評点がラスアス1と比較して悲惨なことになっている理由も、ほぼ間違いなくストーリーによるものだ。

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以下、前作のネタバレあり。
 
 
 
 
 
 
 
 
前作The Last of Usが万人向けの傑作である理由

今作のストーリーを取り上げる前に、まず前作The Last of Usのストーリーを説明しなければならない。謎の寄生菌のパンデミックが発生して荒廃した世界で、主人公ジョエルは寄生菌に対し人類で(おそらく)唯一免疫を持つ少女エリーを、寄生菌のワクチン開発拠点である遠方の病院まで送り届ける依頼を受ける。ジョエルとエリーの2人は、寄生菌の影響で凶暴化した感染者や、生き残るために誰彼構わず襲ってくる略奪者と戦いつつ、長旅の中で互いに絆を深めていく。ついに彼らはアメリカ大陸を横断して目的地の病院の一歩手前まで辿り着くが、そこで不慮の事故に遭い、2人とも昏睡状態で病院に担ぎ込まれる。病院で目を覚ましたジョエルは、ワクチン開発のためにはエリーの脳を摘出する、つまりエリーを犠牲する必要があることを知らされる。ジョエルは手術担当の医師を殺害し、昏睡状態のエリーを病院から連れ出す。帰途で目が覚めたエリーから何があったのか問われたジョエルは、病院には免疫持ちの人が他に何十人もいた上、病院では治療法の開発をしていなかった、と嘘をつく。エリーは長い沈黙の後、「わかった」と答えて物語は幕を閉じる。

つまり、ジョエルは全人類の未来よりもエリー1人の未来を選んだ。エンディング分岐無しにこの葛藤に満ちた結末を迎えるにも関わらず、97%ものGoogleユーザーがこのゲームを高く評価した理由の1つは、ジョエルがエリーを救った理由が誰の目から見ても明らかであるから、と自分は考えている。ジョエルはエリーをもはや娘同然と思っていて、エリーを犠牲にすることを到底受け入れられなかった。ジョエルは失った娘のサラをエリーと重ねているとか、The Last of Usというタイトルの回収とか、その他色々と考察の余地はあるものの、どのプレイヤーも大筋の理解は同じだろう。罪悪感と葛藤とエゴに満ちたエンディングだが、豊かな描写によって主人公の行動の理由は誰にだって理解できる、だからラスアス1は万人向けの傑作なのだ。

 
 
 
 
 
 
 
以下、今作のネタバレあり。
 
 
 
 
 
 
 
本当に人を選ぶ作品になってしまったThe Last of Us Part II

一方で今作ラストオブアス2は、決して万人向けではない。最大の問題点は、描写が不足しているせいでエンディングの解釈が定まらず、主人公の行動の理由がはっきりしない点だ。解釈揺れがない事実の面に注目しても、前作ファンの反感を買うこと、プレイヤーに葛藤を強いるものばかり。カタルシスとは無縁、むしろそれと対極にあるような淀んだ鬱積の中にプレイヤーを沈めて窒息させるゲーム、それがこのラストオブアス2である。この過酷な体験に堪えられなかったのか、出演声優に脅迫文を送りつける人すらいる。


前作プレイヤーのメンタル破壊

ストーリー順に説明していこう。ラストオブアス2は、まず大きく2段階に分けて前作プレイヤーのメンタルを破壊する。1段階目はジョエルの死、2段階目は前作エンディングに対する美しい解釈の否定である。

ラスアス2を始めたプレイヤーは、まず平和に暮らすエリーやジョエルのシーンを見せられ、前作のジョエルの決断は正しかったのかもしれない、と束の間の安心を得る。しかしその後、ジョエルは偶然遭遇した初対面のアビーに本名を知られてしまったせいで、ジョエルへの復讐を志していたアビーに不意打ちされ惨殺されてしまう。人一倍警戒心が強かった前作のジョエルを知るプレイヤーは、あまりに不用心なジョエルの最期に面食らう。開発者と役者へのインタビューによると、「ゲーム序盤の時点でジョエルは、安全なコミュニティの中で4年間過ごしてきました」「ジョエルもまた、ジャクソンで暮らしている普通の人間になっているのです」とあるが、前作の冷酷で強靭な主人公があっさり死んだのは4年かけて平和ボケしたから、と説明されても簡単に納得できるものではないだろう。

△発売前のゲームトレーラー。ジョエルとエリーが一緒に旅をすることが示唆されている嘘予告であり、熱心に発売前情報を集めるプレイヤーをミスリードしている。勿論自分も引っかかった1人だ


そして2段階目。ジョエルがエリーを病院から救い出したことは既にエリーに露見しており、そのことをエリーは全く受け入れられずジョエルと絶交していたことがストーリー中盤で判明する。「エリーはジョエルの嘘に半ば気付いているが、ジョエルの思いを汲んで嘘を受け入れている」という前作の美しい解釈は否定される。ジョエルのモーションアクター兼声優のTroy Baker氏はインタビューの中で

『TLOU2(注)』はそうした現代のあり方に鏡を向け、“あなたは自分が愛するものを嫌う覚悟がありますか。自分本位に思い描いたあるべき姿を愛するのではなく、あるがままの姿を愛することができますか”と問いかけてきます
※注 The Last of Us Part IIの略称

と述べているが、ラスアス2で新たに提示されたジョエルとエリーのあるがままの姿を受け入れることができるかを、まさに問いかけていると言える。


ストレスに満ちたゲーム体験

前作との関連を抜きにしても、このゲームの体験はストレスに満ちている。エリーは仇敵アビーを追い、アビーの仲間達を殺して所持品を奪い、あるいは拷問してアビーの居場所をつきとめていく。しかし、エリーは自分の拠点のメモを敵地に置き忘れてしまったことで逆にアビーの奇襲を受け、同行していた仲間を殺され窮地に陥る。

アビーへの憎悪が頂点に達し、ついにアビーとの決闘が始まる瞬間…なんと操作キャラが4年前のアビーに変わり、アビー編が始まる。そこで、アビーの父親はワクチン開発のためエリーを手術するはずだった医師で、父親を殺したジョエルに対しアビーが復讐を志した経緯が明かされる。その後、エリーがアビーの仲間達を殺している間アビーが何をしていたのか、プレイヤーはアビーとして長い時間をかけて追体験していく。敵側のキャラを操作する展開自体は珍しいものではないし、アビー操作パート自体は序盤にもあるのだが、アビー編を本格的に始めるタイミングが常軌を逸している。

早くエリーを操作してアビーと戦いたいと焦ったプレイヤーは多いだろうが、アビー編の最後でプレイヤーはアビーとしてエリーと戦うことを要求される。プレイヤーは自らの操作でエリーを殴り飛ばし、エリーの首を絞めつけなければならない。エリーとの戦いに勝利したアビーはエリーを殺さずに見逃すが、多くのプレイヤーにとって不快な体験であることは間違いない。


解釈の定まらないエンディング

最後に、問題のエンディングだ。家族の反対を押し切り、アビーを追いサンタバーバラに赴いたエリーは、その土地を牛耳っていたギャングによって瀕死の状態まで追い込まれたアビーを発見する。エリーは戦意を喪失していたアビーを脅して決闘させ、指2本を失いつつもアビーを殺す寸前まで追い詰める。しかし、その刹那ジョエルの姿が脳裏に浮かび、アビーを殺さずに見逃してしまう。エリーはその後自宅に戻るが、家族は既にその家を放棄しており、家にはエリーの私物だけ残されていた。そこでエリーは自分のギターを発見するが、左手の指を失ったせいでもはや満足に弾けなくなっていた。エリーはギターを窓辺に立て掛け、自宅を後にする。

解釈が全く定まらないエンディングだ。ラスアス1でジョエルがエリーを助けた理由は自明だが、ラスアス2でエリーがアビーを見逃した理由ははっきりしない。

  • エリーがアビーをジョエルと重ねたから?アビーはファイアフライという組織を探してレブという子供と一緒に旅をしており、前作のジョエルと似た境遇にある
  • 復讐によって自分が変わってしまうことを恐れたから?アビーを水に沈めるシーンは、ラスアス1でエリーが最初に人を撃ち殺したシーンと状況が似ている
  • エリーがジョエルを理解したから?エリーが求めていたものは実は復讐ではなく、ジョエルを理解することだった。自分のエゴのために殺人を繰り返す体験をしたことでジョエルの行動を理解し、復讐の必要がなくなった

個人的に、どれもある程度理解できるが納得しきれない解釈である。このように如何様にも解釈できる状態なので、「ひたすら不快な体験をさせられた後になぜか急に主人公が復讐をやめた」と捉えるプレイヤーも当然いるだろう。もはや丸投げと言われても仕方がなく、悪い意味で人を選ぶ作品になったと言わざるを得ない。

ちなみに、ディレクターのDruckmann氏はインタビューにて

ときにひどい決断をしたり、誤った決断をしたり、人間らしい決断をしたり。そうしながら、最終的に自らが振るう暴力からエゴを切り離す。本作でエリーが歩むのは、そうした道のりです。彼女のエゴが裁きをもたらすことに執着するあまり、どん底に落ちるまで目を覚ますことができない。本作はそういったゲームです

と述べている。これも今ひとつ不明瞭なコメントであり、「最終的に自らが振るう暴力からエゴを切り離す」に傍線を引いて国語の問題にしたいくらいだ。復讐を求めるエゴに駆動された暴力を、エリーがやめたきっかけは一体何だったのか?


エンディングとラストオブアス2全体の自分なりの解釈

【2021.10.6編集】知り合いの初見プレイ配信を見て、よりシンプルな解釈に至ったので、そちらに書き換えている。

自分が辿り着いた、エンディングの解釈は以下の通り。アビーを殺す寸前の所で、自分が執着していた相手はアビーではなくジョエルであったこと、もはやアビーを殺してもジョエルを許す機会は訪れないことを悟り、復讐をやめた

エリーは自分を勝手に救い出したジョエルを恨み絶交状態にあったものの、同時にジョエルを許したいという感情も持ち合わせていた。しかし、ジョエルがアビーに殺されたことで、ジョエルを許し、許したことを伝える機会を永久に失ってしまった。つまりエリーが真に欲していたのはアビーの命ではなく、ジョエルを許す機会であり、エリーはそれを取り戻したい、あるいはもう取り戻せない無念を晴らしたいというエゴに駆動されて暴虐の限りを尽くしていたと考えられる。

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エンディング ジョエルとエリーの会話回想シーン

こう考えると、弾けなくなったギターをエリーが置いていく寂しいシーン、ひいては辛い体験だらけの今作のストーリーに対しても、微かにポジティブな解釈ができる。エリーにとってギターはジョエルとの絆の象徴であるが、同時にジョエルに対する執着、依存の象徴でもある。だからこそエリーはトミーに誘われたときではなく、ギターを弾いた翌日にサンタバーバラに発った。ジョエルに固執するエゴから解放されたエリーには、もはやギターも不要な物になっていた。The Last of Us Part IIは、多大なる葛藤の中で成長し、1人の大人として自立するエリーを描いた物語なのではないか、と自分は考えている。

 

 [記事投稿時の解釈]

自分が辿り着いた、エンディングの解釈は以下の通り。アビーを殺す寸前の所で、復讐を求める不寛容なエゴより、自らの生を肯定したい寛容なエゴが上回ったため、エリーは復讐を完遂できなかった。つまり、エリーは元々2種類の心情を持っていた。片方は不寛容なエゴであり、アビーに対する復讐を求め、自分を救い出したジョエルを許さず執着するエリーの心情である。もう一方は寛容なエゴであり、アビーを許し、自分を救い出したジョエルを許す心情である。

アビーを殺して復讐を達成することは、復讐行為の肯定に繋がる。つまりアビーの復讐の動機である、ジョエルがアビーの父親を殺したこと、ジョエルが病院でエリーを救い出したことは、復讐に値する行為だと認めることになる。それはエリー自身の生の否定に繋がる。最初、エリーは不寛容なエゴに支配されており、ジョエルを一生許せない、ジョエルに救い出されたことで自分は生きた証を残せなかったと思っていたので、それでも問題なかった。

しかし、エリーは同時にジョエルを許したいという感情も持ち合わせていた。アビーを殺す直前に、全人類の命よりエリー1人の命を選び、その選択を後悔していないジョエルの姿が脳裏をよぎり、エリーの中の寛容なエゴが不寛容なエゴを上回ってしまう。その結果、エリーの暴力を駆動する心的な力が弱まり、エリーは復讐をやめた、というよりできなかった。

こう考えると、弾けなくなったギターをエリーが置いていく寂しいシーン、ひいては辛い体験だらけの今作のストーリーに対しても、微かにポジティブな解釈ができる。エリーにとってギターはジョエルとの絆の象徴であるが、同時にジョエルに対する執着、依存の象徴でもある。ジョエルに固執する不寛容なエゴから解放されたエリーには、もはやギターも不要な物になっていた。The Last of Us Part IIは、多大なる葛藤の中で成長し、1人の大人として自立するエリーを描いた物語なのではないか、と自分は考えている。

もちろん、この解釈を裏付ける証拠は存在しない。ポジティブなニュアンスを含むのも「何かしらの救いがあってほしい」と勝手に願う自分自身のエゴの発露に過ぎないのかもしれない。もし次回作が今作と同様の路線で作られるなら、この都合の良い快適な解釈はおそらく否定されることになるだろう。*1

 

 

総評

ラストオブアス2は、描写、演出、戦闘どれも大変高水準にまとまっている。特に、動体の繊細な描写や格闘モーションの豊富さには狂気すら感じられる。戦闘システムの進化も目覚ましく、大変人間らしい強敵AIを相手に、前作より圧倒的に自由度が高く様々な技術を要求される銃撃戦や格闘戦を楽しめる。

しかし、ストーリーの難点が目立つ。最大の難点はエンディングの描写不足であり、丸投げと揶揄されても仕方ないほど。さらに、前作ファンの心を抉る展開が多く、ストーリー上は全編を通してカタルシス皆無、終始ストレスに満ちていてプレイヤーをひたすら精神的に消耗させる。

ストーリー以外の点は間違いなく非常にハイレベルであること、ストーリー部分もかろうじて理解可能であることを考えると、総合的には名作と判定できる。しかし、万人向けの傑作であった前作とは異なり、本当に人を選ぶ作品になってしまった。制作者の判断は尊重するが、もはや誰もが同じ物語を共有できるようなゲームでなくなってしまった点については、自分は残念に思う。

 

【追記】2020年のゲームオブザイヤーはラストオブアス2となった。大舞台で称賛されるようなゲームではないと自分は思っていたので、正直微妙な心持ちである。

 

*1:次回作が出るとすれば、決闘中にエリーがアビーの腕を噛んだことが何らかの形で関わる予感がしている。作中でエリーは免疫はあげられないと言っているが、実はアビーも免疫持ちになっていたり…?